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Vol.65 山地性のリス 

2015.10.25

 キナバル山は標高4095メートル、ボルネオ島の最高峰です。唯一の登山ルートは標高1500メートルに位置する公園事務所を起点としています。ここで入山手続きをすませ、ガイドと共に出発するわけですが、標高1800メートルにある発電所まで車で送ってもらい、そこからが歩いての登山となります。恐ろしく急峻な道ですが、約500メートル毎に「シェルター」と呼ばれる屋根付きの休憩所があります。

 一休みしていると必ずやって来るのがボルネオカオナガリスです。ずんぐりして尾も太く、体型からリスだと分かります。大きさや体型が良く似ているものの、顔が尖り、尾が多少細くて長い動物も、時々、やって来ます。これはリスではなくヤマツパイです。

 ボルネオカオナガリスは、ボルネオ島固有のリスで、サラワク州からサバ州にかけての山岳地帯に分布。サバ州ではクロッカー山脈の標高1300メートルより上部、キナバル山では1050メートルあたりから森林限界に近い3400メートル付近にまで棲息しています。トゥルスマディでは1320メートルから1650メートルの間。その他、タワウ高原、奧カラバカンなどで記録があります。登山道沿いで頻繁に目撃される理由は、登山客からの食べ物を期待して、山小屋やシェルター近くに居着いている個体も多いからです。

ボルネオカオナガリス

ボルネオカオナガリス

 上面は灰色を帯びた黄褐色、腹面は先端が黄白色の灰色の毛で覆われています。尾の毛は黒色、先端と基部が赤褐色です。頭胴長16から19センチ、尾長7.2から13センチ、尾は頭胴長の55から60パーセント。尾が短いリスです。また、ハナナガリスほどではありませんが、鼻づらが多少とも尖っています。昼行性で、午前中いっぱいと夕方活動しています。他の山地性のリスと違って地上中心の生活ですが、果実や花などを食べる時は灌木に登っています。休むときは倒木や石の下の穴や、地上近くの木の洞などに潜んでいます。

 ボルネオヤマスンダリスは、丸顔で一見メガネを掛けたような特徴のある顔をしています。ぐるりと目を取り巻くリング模様があるからです。薄いクリーム色の模様は、耳介の縁、ヒゲに当たる部分にもあります。この風貌から、私は勝手に「学者リス」と呼んでいます。頭胴長12から14.4センチ、尾は細くて長く、体長(頭胴長)と同じくらいの11から13.3センチです。上面は細かな斑が混じる淡い褐色、腹面は灰色の下毛とクリーム色を帯びた白色です。本種もボルネオ島固有種で、カリマンタン、サラワク、サバの標高900メートル以上の山地帯に分布します。キナバル山では3140メートルあたりまで棲息していますが、良く観察出来るのは、キナバル山のメシラウや、クロッカー山脈の峠越えのあたりです。昼行性で灌木や太くはないが背の高い木の樹冠部から根本近くまでを活動域とし、軟らかな樹皮、コケ、地衣類、小昆虫を食べています。樹上性の小形リスに共通して、採餌中は1箇所に留まり、小刻みに体を動かしていますが、一旦、移動となると物凄い速さで樹幹を走ります。初めて見る人にとっては、リスではなく小鳥に思えるかも知れません。

ボルネオヤマスンダリス

ボルネオヤマスンダリス

 ボルネオワキスジリスもボルネオ島固有種です。山地に固有種が多いのは、山という隔離された環境で長い年代が経ち、さらに島となって大陸から隔離されたからでしょう。本種はボルネオの北西部にあたるサラワク北部とサバ州で記録されています。キナバル山では標高550から1700メートルの範囲、トゥルスマディ山では標高1500メートルと1650メートルでの記録があります。しかし、ほとんど見かける機会がなく、生態も良く分かっていません。私が数日間にわたって毎日観察したのは、ほとんど奇跡と言って良いかも知れません。灌木や巨木ではなく、中程度の木の樹上で活動し、食べ物の多くを果実に頼っているようです。果実がある木では数頭一緒にいることが多く、果実がなっている期間は同じ木を頻繁に訪れます。頭胴長13.2から17センチ、尾長12.8から17センチで、頭胴と尾がほぼ同じ長さです。尾はどちらかと言えば細く、ふさふさしていません。上面は細かな斑が入った赤みを帯びた褐色、腹面は明るい灰色で、上面と腹面の境界に黒い帯模様が入っています。さらに両耳の後面に薄い黄褐色の斑があるのですが、これは、よほど近くで観察しないと確認することが出来ません。ボルネオワキスジリスは、町の公園や村落周辺に棲むバナナリスや低地フタバガキ林に棲息するミミホシリスと同属です。それですから、一見良く似ています。しかし、本種はそれらより一回り小さいことと、他の2種は腹面が赤みを帯びることで区別することが出来ます。それに、何よりも分布域が重複しません。種小名にある「orestes」は、「mountain-dweller(山地に棲む)」という意味です。

ボルネオワキスジリス

ボルネオワキスジリス

 アカハラナガハリスは、バナナリスやミミホシリスをずっと小さくした感じの大変小さなリスです。ただ、2種とは生活圏が重なることはなく、混同することはありません。頭胴長9.4から14.4センチ。しかし尾は長く、9.5から10.6センチ。上面は細かな斑の入った茶褐色、腹面は赤褐色です。本種は他のリスと比べて歯に特徴があり、特に下顎の切歯は外側に反り、さらに外側に僅かな凹みが見られます。このことから、「Glyphotes」という独立した属に分類されています。

 アカハラナガハリスも、やはりボルネオ島固有種です。しかし、分布域は限られており、記録はサラワクとサバなどボルネオ島の北西部の山地林、標高1300から1700メートルの間だけです。昼行性ですが、生活史や特異的な歯が何のためなのかも不明です。実は、私も本種に関しては標本でしかお目に掛かっていないのです。

和名   ボルネオカオナガリス
学名   Dremomys everetti
英名   Bornean Mountain Ground Squirrel

和名   ボルネオヤマスンダリス
学名   Sundasciurus jentinki
英名   Jentink’s Squirrel

和名   ボルネオワキスジリス
学名   Callosciurus orestes
英名   Bornean Black-banded Squirrel

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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