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Vol.92 ボルネオ島の爬虫類

2018.1.25

 種類数でいうと、日本の4倍以上の爬虫類が棲息するボルネオ島。私は爬虫類の研究者ではありませんが、ボルネオでは様々な体験をしてきました。相手が眠っていたから助かったものの、踏んづけそうになった3メートルのキングコブラ。ボートの下を潜りぬけた4メートルを超すワニ。ボートが大きく傾き、暗闇の川に投げ出される恐怖を感じました。また、激流でボートの転覆を避けようと、とっさに川辺の木に抱きついたことがありました。ところが枝に大きなマングローブヘビがいたのです。幸いにも咬まれなかったのですが、手を離したために、あわや転覆という怖い目に遭いました。しかし、素敵な出来事もありました。1990年代の前半、私はJICAの長期専門家としてバリクパパンに近い山中で哺乳類の調査をしていました。その折、約1ヶ月間、千石正一氏に来てもらい爬虫両生類の調査をお願いしました。生前、テレビにも良く出演していた、あの千石氏です。

 ある日、データ整理や標本作製が終わり、そろそろ寝ようという時刻でした。「ねえ、珍しいヤモリを見たんだけれど・・・・・・」。私はずっと気になっていたことを彼に話しました。

 宿舎から伸びる林道の終点に、トタン屋根だけの小屋があります。スコールの際に雨宿りをするためのものです。約6キロメートルの距離で、普段、私はそこにバイクを止め、さらに歩いた所で動物の観察を続けているのです。ある日、小屋の柱に一匹のヤモリがいました。特異な形なので、一目で珍種だと分かりました。全長10センチ、灰褐色。その点では多くのヤモリと変わりません。ところが、胴体と尾が同じ長さであり、しかも尾は胴体より幅広になっているのです。おまけに尾の両側には花びらのような大きな突起が並んでいました。このヤモリは、小屋の柱か近くの木に必ず静止していました。しかし、夜間に限ってのことです。日中はどんなに時間をかけて探しても見つけることが出来ません。

イリエワニ。大きな川の中流域から河口にかけて棲息。夜活発に活動する。

 以上のような詳細を千石氏に伝えると、「これから出かけよう」ということになりました。私も大いに関心があったので、午後11時ということも気になりませんでした。はたして、いつものように当のヤモリがいました。ただ、木の高い位置にいたため、ちょっと工夫が必要でした。つまり、私が木登りをして払い落とし、千石氏が見事に捕虫網で受け止めました。「安間さん、新種ですよ」。絶叫にも似た彼の一言でした。

 このヤモリは後に疋田・千石・太田の三氏により新種記載されました。学名Luperosaurus yasumai、マレーシアの数種の図鑑には英名Yasuma’s Camouflage Geckoとあります。私は、和名ヤスマニンジャヤモリと呼ぶようにしています。

 世界の爬虫類は、海棲種も含めると、2016年4月時点で10,450種が記録されています。脊椎動物の中では、魚類の25,000種に次ぎ、鳥類の10,000種とほぼ同数と言えます。ちなみに、両生類は6,000種、哺乳類は約5,000種が記録されています。動物の数は研究が進むにつれて増えるものです。分類学上の考え方や種の基準が変わることで、亜種から種のレベルに格上げになったり、新種の発見が加わるからです。爬虫類に関してみると、2014年から2015年10月までの1年間で190種増え、そのうち81種は新発見でした。さらに、その後2016年4月までに59種増えています。

マレーオオトカゲ。主に水辺に棲息、泳ぎも木登りも得意で何でも食べる。

 ボルネオ島では2016年8月時点で、爬虫類はウミガメやウミヘビなど海に棲む種類を除き277種の記録があります。内訳はワニ3種(全世界24種)、トカゲやヤモリ126種(6332種)、ヘビ137種(3592種)、カメ11種(339種)です。

 ボルネオ島には11種の海棲種を除いて、137種のヘビが分布しています。特にヒメヘビやスジオの仲間が含まれるナミヘビ科が90種もいます。

 ヒメヘビ属は15~40センチの小さなヘビで、全身が光沢のあるウロコで覆われています。ミミズや小昆虫を食べているようです。林道上や側溝で、死んで乾燥したものを頻繁に見かけます。ボルネオには22種が分布していますが、私には種の判別が出来ません。

 ボルネオには有毒蛇も多く分布しています。森に入っただけではほとんど見ることがないのですが、これは、我々が気づかないと同時に、ヘビも積極的に人を襲うことがないと言うことなのでしょう。ところが、その気になって探すと、山道の脇などで結構見つけられるのです。水たまりやぬかるんだ所にヘビはいません。しかし、林内で下草が茂った場所は注意したほうがよいし、特に灌木の葉が茂った部分には、ヨロイハブ、マングローブヘビ、ハブの仲間がとぐろを巻いていることが多いのです。

スミスヤモリ。大形のヤモリで農村や山あい集落の民家に棲み着いている。

 私が常に気をつけているのはニシキヘビです。無毒ですが、6メートルを超す大物になると咬まれた時の傷で命取りになることがあると聞きます。ただ、村里近くに大きなものはいません。皮が高価で売れるから、大方、捕りつくされてしまったのです。ところが、奥地の山には大きな個体がおり、獣道でマメジカやイノシシを待ち伏せています。

 日本ではウミガメやウミヘビなど海に棲む種類を除き、在来種と考えられているものは、59種です。確認されている外来種は31種類。この中には、八丈島のニホントカゲやアオダイショウのように、日本列島の一部地域ではもともといた種であるが、他地域に人為的に持ち込まれて定着したという例もあります。これらも、その地域にとっての外来種として扱われます。本来日本列島には分布していなかった種は13種で、ミシシッピーアカミミガメ、カミツキガメ、グリーンアノール、グリーンイグアナ、タイワンハブのように定着し、日本の生態系の中で市民権を得たものもあります。反面、ホオグロヤモリ、ブラミーニメクラヘビのように日本における自然分布が判然としないものや、ニホンヤモリに至っては、日本のもの全てが外来の可能性がある種類もいます。

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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