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Vol.78 アナツバメ

2016.11.25

 アナツバメとは、その巣が中華料理の「燕の巣」として利用される鳥のことです。

 俗にいう「ツバメ」には二つのグループがあります。一つはスズメ目ツバメ科に属するツバメで、英語の「スワロー」です。電線や小枝に止まることができ、日本へはツバメとリュウキュウツバメが夏鳥として飛来します。巣材は泥なので人間の食用にはなりません。

 もう一つはアマツバメ目アマツバメ科のツバメで、英語では「スイフト」または「スイフトレット」と呼ばれるグループです。日本ではアマツバメやヒメアマツバメが知られています。四本の指が前を向いていて、爪そのものと握力が強いので、樹幹や崖に垂直に止まることができます。逆に、スワローのように電線や小枝に止まることはありません。二つのグループは形態や飛翔方法が似ていますが、系統的には離れたグループです。

コケアナツバメ。洞穴の外の明るい場所で営巣する。

コケアナツバメ。洞穴の外の明るい場所で営巣する。

 アマツバメの中にアナツバメと呼ばれるグループがあります。全長一○から一五センチの小型の鳥で、インドから東南アジア、熱帯太平洋、オーストラリア北部にかけて、四属約三三種が分布します。最大の棲息地はボルネオ島で、そこには七種類がいます。洞穴内に集団で営巣し、日中は洞穴から出て、飛びながらトンボやハエやカなど小昆虫を捕食します。アナツバメの中でも、Aerodramusに属する種類はエコロケーションをします。「ジェッ、ジェッ、ジェッ」と私たちにも聞こえる音を発し、反射音を聞きとることで障害物を察知します。これにより真っ暗な洞穴の最深部でも行き来することができるのです。ただし、CollocaliaとHydrochousではほとんどの種類がエコロケーションをしません。

 鳥の多くは巣作りの際の接着剤として唾液を用いるようです。特にアナツバメは、唾液腺から分泌される粘着質の分泌物を巣の材料としても使っています。分泌物は固まると白い半透明の薄いビニルのようになります。これが中華料理の燕巣スープの材料として珍重されるのです。本当とは思えませんが、なんでも催淫作用があると言われています。

 サバ州のゴマントンやマダイ、サラワク北部のニアは、燕巣採集ではよく知られた洞穴です。洞床から六○メートルもある天井にロープやはしごを架け、命知らずの男たちがよじ登っては、燕巣を剥がし取っています。

コケアナツバメ。抱卵期は日中でも巣にいることが多い。

コケアナツバメ。抱卵期は日中でも巣にいることが多い。

 燕巣は色によって白、黒、コケの三つに大別されます。白は唾液腺からの分泌物を多量に含んだものです。アナツバメは他のアマツバメ科の鳥同様、羽毛など空中で得られる浮遊物を集めて巣材とし、唾液腺からの分泌物で固めて巣を造ります。しかし、特にジャワアナツバメとオオアナツバメは巣材をわずかしか使わず、巣全体が唾液腺の分泌物でできています。そのため、これらの巣は一番価値のあるものとして高値で取り引されます。黒にはアナツバメ自身の羽毛が含まれています。これは温湯に一昼夜浸して両者を分離させます。コケは巣の材料に大量のコケを含んでおり、ほとんど価値がないので採集しません。 

 燕巣採集は、業者が入札して、採取権を買い取り、多数の人夫をやとって行ないます。業者は中国系住民、人夫はプナンおよびダヤクに総称される先住民だったり、フィリピンあたりからの「流れ者」です。彼らにとっては破格の高収入ですが、それだけに危険が多く、以前は頻繁に死者がでたようです。昔は竹の一本ばしごを洞壁に立てかけたり、天井から吊るした籐づるを伝って登っていました。どうやって吊るしたのでしょう。洞によっては天井に穴があり、山を伝って洞の上に出て、そこから吊したところもあるのですが、その他は、やはり洞壁を下から登っていったのです。このことはニア洞穴を訪ねると理解できます。そこでは岩の割れ目に角材を差し込み固定させ、さらに角材をたくみに組み合わせながら天井に達しています。また、つなぎ合わせた角材が天井から吊り下げられ、洞床近くにまで達しているものもあります。材はテツボクなので、なかば永久的に腐らないのですが、特別に重いテツボクをどうやって持ち上げたのかと考えると、またまた想像もつかないことになってしまいます。収穫は年二回おこない、一回は五日から一週間です。

 アナツバメの巣作りは最短四○日、平均で二ヵ月かかります。産卵から孵化までが二八日。給餌は二ヵ月。一回のヒナが巣立つまで五から六ヵ月を要するということです。

ゴマントン洞穴。サバ州最大の洞穴、燕巣採集が盛ん。

ゴマントン洞穴。サバ州最大の洞穴、燕巣採集が盛ん。

 燕巣採取の手順は、まず、親のアマツバメが巣を完成させると、これを取り上げてしまいます。しかたなくアナツバメは再度巣作りをします。二度目の巣を使ってアナツバメは産卵、子育てをします。この間、燕巣採取業者は、自然のままに産卵、子育てをまかせます。そして、ヒナが巣立ったあとに残った巣を取るのです。「繁殖、巣立ちは保障しているのだから何の悪影響もない」と関係者は言います。しかし、最初の巣をとった直後はアナツバメがパニックに陥り、産み場のなくなった卵が洞床に無数に散乱し、さながら修羅場のような光景になります。これを見てしまうと、高価なこともさることながら、燕巣スープをわざわざ味わってみる気には、私はなれません。

 近年、タイやマレーシアの一部、インドネシアの東ジャワやバリ島では、アナツバメの飼育が行われるようになっています。まとまった収入が期待できるのです。多くは老朽化したビルを使ったり、ブロックやレンガで三階建てほどのシンプルな建物を造ります。窓は不要で、壁の所々にアナツバメが出入りできるように穴を開けておきます。そして、巨大スピーカーでアナツバメの声を流し続けて、群れを誘き寄せるのです。アナツバメの一群が定着したら、あとは自然の洞穴と同じ方法で、燕巣の採取を行ないます。

和名             学名                英名
ジャワアナツバメ     Aerodramus fuciphaga      Edible-nest Swiftlet
マレーアナツバメ     Aerodramus germani       German’s Swiftlet
オオアナツバメ      Aerodramus maxima        Black-nest Swiftlet
コケアナツバメ      Aerodramus salangana      Mossy-nest Swiftlet
シロハラアナツバメ   Collocalia esculenta        Glossy Swiftlet
ボルネオアナツバメ   Collocalia dodgei           Bornean Swiftlet
オニアナツバメ      Hydrochous gigas          Waterfall Swift

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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