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Vol.53 チビオマングース

2014.10.25

 沖縄地方の方言で「マングー」とは「ブス」のこと。「ヤーマングー」は、手に負えないいたずら坊主の意味です。このこととは関係ありませんが、チビオマングースを見ていると、何故かずる賢い印象を受けます。背中を丸めコソコソと歩き、私が置いた肉片をくわえると、サッと林内に消えてしまう。特に、白目が見えたりすると、その印象が確定的になるから不思議です。でも、動物に罪はありません。そんな見方をしたら可哀想ですね。

 それどころか、チビオマングースは臆病で人目を避ける動物です。私はタビン野生生物保護区で、1度しか遭遇していません。ところが、決して珍しい動物ではなく、任意の場所に観察場を作り、肉片を置いておくと、日没直前または夜明けにやって来ます。ジャワジャコウネコが来る夜にはいなくなり、それがもはや来なくなった朝方、再来します。

 マングースは分類上、ジャコウネコ科の動物とされてきました。ただ、体型などの特徴から、ジャコウネコ科マングース亜科として、ハクビシンやジャコウネコ(ジャコウネコ亜科)とは区別されていました。最新の分類では、ジャコウネコ科を3つの独立した科に分けています。すなわちリンサン科、ジャコウネコ科、マングース科です。

胴長、短足。尖った吻、全体に細長い動物だ。

胴長、短足。尖った吻、全体に細長い動物だ。

 マングース科の動物は、15属34種類に分類され、旧大陸のアジア、アフリカ、中近東から南ヨーロッパの一部などに分布します。砂漠やサバンナのような開けた乾燥地帯に棲む種類や、深い熱帯雨林に棲む種類もあります。

 大きさはイエネコくらいですが、イエネコとは随分違った体型です。長い顔、胴長、先端に向かって細くなる長い尾、短足、小さな丸い耳などが共通した特徴です。

 チビオマングースは、マレーシア半島、スマトラ、パラワン、ボルネオに分布。低地混交フタバガキ林から山地林低部に棲息しています。森林に棲み、原野や耕作地、明るく開けた森では見られません。ボルネオ島ではほぼ全域に分布しますが、私の経験ではサバよりカリマンタンのほうが、出会うことが多く感じました。

 頭胴長38から44.5センチ、尾長20.5から25センチ、体重2キログラム前後です。尾の長さは頭胴長の55パーセント以下で、これが「チビオ」の名の由来です。

 全体に暗褐色ですが、頭と尾の部分は多少、淡い色になっています。褐色をした顎と喉を除き、黄色の毛が全体にあり、体の表面が黄色く輝いて見えます。

普段はほとんど単独行動だ。

普段はほとんど単独行動だ。

 主に日中、地上で活動、木には登りません。特に早朝と夕方活発に動き、休息には木の洞、岩の割れ目や洞を使っています。肉食性で、多くの地上にいる昆虫類、ムカデなど。ネズミのような小哺乳類、ヘビ、トカゲ、カエル、鳥類まで捕食します。

 クビワマングースは、頭胴長40から45.5センチ、尾長25.8から30.3センチ、体重2キログラム。大きさはチビオマングースとほとんど変わりません。しかし、尾が長く、頭胴長の60パーセント以上あります。この特徴を捉えて、マレーシアではBambun Ekor Panjang(尾の長いマングース)と呼んでいます。

 ボルネオ島のほぼ全域に分布しますが、チビオマングースに比べて数が少ないようです。また、本種はボルネオ固有種と考えられます。「スマトラに分布」と書いてある書物も多いのですが、博物館にある2頭の古い記録があるだけなのです。現在の研究は、研究者が直接現地に赴くことが基本です。ところが昔は、動物商がシンガポールのような大都市に滞在し、東南アジアの標本を買いあさり、イギリスやオランダ本国の博物館へ売るなどしていました。ですから、添付ラベルに間違いが生ずることもあったのでしょう。

 クビワマングースに関して、私はクロッカー山脈でトラップを使って1頭を捕獲したことがあるだけです。ダヌムバレーでは、友人が設置した無人カメラに写っていました。

餌場を作ると、複数個体が鉢合わせすることもある。

餌場を作ると、複数個体が鉢合わせすることもある。

 ボルネオ島からはもう一種類のマングースが記録されています。ホーズマングースです。一見チビオマングースに似ています。しかし、毛が短く灰色がかった赤褐色の体をしていることや、特に頭蓋骨と下顎に特徴があります。もっとも、本種に関しては、唯一メスの成獣1個体の記録があるのみです。1893年、チャールス ホースによりサラワクのバラム地域から収集された個体で、以来、まったく情報がありません。

 さらに、最新の分類では、ホーズマングースはチビオマングースの異常型として扱われています。つまり、ホーズマングースは存在しないということです。

 日本には沖縄島と奄美大島にマングースが棲息します。在来の動物ではなく、ネズミやハブの捕食者として、あるいは観光目的のために導入した個体が野生化したものです。沖縄島へは1910年に、渡瀬庄二郎博士が導入しました。長らくインドマングースと考えられて来ましたが、頭骨の形態などからジャワマングースとする説が有力です。ちなみにインドマングースはアラビア半島からインド、バングラディシュに分布。ジャワマングースはヒマラヤ西部から中国南部、マレーシア半島、台湾、スマトラ、ジャワに分布します。

 導入された当時の学会誌には、「天敵という自然界の摂理を使った英知」といった賛辞があり、「マングース万歳、渡瀬先生万歳」とまで記されています。ところが、マングースがヤンバルクイナをはじめとするヘビやカエルなどの在来生物を捕食し、生態系の脅威になっていることが分かってきました。現在、環境省が中心となって積極的に駆除を進めています。しかし、一旦定着してしまうと、根絶させることは不可能なことなのです。

和名  チビオマングース         クビワマングース         ホーズマングース
学名  Herpestes brachyurus      Herpestes semitorquatus     Herpestes hosei
英名  Short-tailed Mongoose     Collared Mongoose         Hose’s Mongoose

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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