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Vol.79 ウンピョウとマーブルドキャット

2016.12.25

 どちらも、ボルネオ島に棲息する野生ネコです。しかし、探しても簡単に見つかる動物ではなく、目撃はほとんど偶然によるものです。それでも、ウンピョウは、2000年前後にはサバ州タビン野生生物保護区では、3度に1度は遇えたものです。ステーションからマッドボルケーノへ行く道の中間にウンピョウが通る獣道があり、林道と交差していたのです。また、ダヌムバレー自然保護地域では、職員のニワトリ小屋に、深夜、頻繁にウンピョウが来ると聞きました。マーブルドキャットには2度遭遇しただけです。残念ながら両種の野生の写真を持っていません。当時の私のカメラはマニュアル式で、一瞬のチャンスをものにすることは、結構大変だったのです。

 恐竜が栄えた中生代が終わり、6500万年前以降は、哺乳類の時代に変わりました。その頃、ミアキスという小形の肉食動物が出現しました。体長30センチほど。長くほっそりした胴体や、長い尾、短い脚など、イタチあるいは、現在マダガスカルのみに棲息するフォッサなどに似た動物だったようです。6500万年前~4800万年前まで存在し、その後のイヌ科、クマ科、ネコ科、アシカ科などに共通した祖先だと考えられています。

ボルネオウンピョウ。まだ若い。幼獣の時に捕獲され、森へ放たれた個体(しばしば伐採小屋にやって来た)。

ボルネオウンピョウ。まだ若い。幼獣の時に捕獲され、森へ放たれた個体(しばしば伐採小屋にやって来た)。

 4000万年前、ミアキスの子孫からネコ科動物が誕生。その後、ネコ科の流れの中で2500万年前~1200万年前の間にプロアイルルス、ヒペライルリクティス、マカイロドゥス(剣歯虎)が分枝しましたが、いずれも絶滅しています。現在の分類学は、ネコ科動物を8系統37種類としています。ネコ科の流れで最初に分枝したのがヒョウ系統で1080万年前、次に940万年前、ボルネオヤマネコ系統が分枝しました。最後に分かれたのがベンガルヤマネコ系統とイエネコ系統で620万年前と考えられています。ちなみに、ウンピョウはヒョウ系統、マーブルドキャットはボルネオヤマネコ系統に含まれます。

 現在、ウンピョウはアジア大陸の中国南部からインドシナ半島、マレー半島に分布するインドシナウンピョウと、ボルネオ島、スマトラ島、スマトラの東にあるバトゥ島に分布するボルネオウンピョウの2種類に分類されます。両種とも大きさや斑紋が似ており、2006年までは同一種と考えられてきました。それが近年の遺伝学的な解析により、別種とされたわけです。それによると、ボルネオウンピョウは290万年前~140万年前の間に、大陸の個体群から分かれたと推定されています。また、両種の遺伝学的な距離は、両種と他の5種類の大形ネコ類、すなわちユキヒョウ、トラ、ライオン、ヒョウ、ジャガーとの距離と同じくらい離れていると結論しています。

太くて長い尾。がっしりした四肢。背面の雲形模様が特徴(ジャカルタ・ラグナン動物園にて)。

太くて長い尾。がっしりした四肢。背面の雲形模様が特徴(ジャカルタ・ラグナン動物園にて)。

 ボルネオウンピョウは頭胴長70~105センチ、尾長60~85センチ、体重10~25キログラム。成長すると、オスのほうがメスより大きくなります。ウンピョウという名前は全体にある紋様が「雲形」をしているからですが、ボルネオウンピョウは、インドシナウンピョウに比べ雲形模様が小さく、さらに、その中に細かな顕著な斑紋が密に分布していること。全体に灰色が強く、暗い色合い。背面に二本の線が入っていることなどが外観上の違いです。上顎の犬歯が長いことや、頭蓋骨が厚いことも特徴の一つです。

 ウンピョウは、長らく、手つかずの深い常緑樹林にのみ棲息すると考えられていました。しかし、熱帯雨林の開発が進んだ今日では、伐採後の二次林や潅木林、マングローブでも生活していることが分かっています。

 太くて長い尾、がっしりして比較的短い四肢、四肢にある大きな肉球は、本種が主に樹上で生活していることを物語っています。事実、パームシベット、リーフモンキー、オランウータン、鳥類などの餌動物を、ほとんど樹上で捕食しています。しかし、若いスイロク、キョン、マメジカ、ヒゲイノシシ、ヤマアラシ、魚類なども重要な餌動物で、これらは樹上にはいないわけですから、ウンピョウが地上でも活動していることがうかがえます。特にボルネオでは林道など地上で狩りをする姿が目撃されています。私が遭遇したのも、すべて地上でのことでした。ボルネオのウンピョウが樹上でも地上でも活動することは、研究者の間では知られていることです。これは、ボルネオにはトラがいないことと関連があると考えられています。つまり、他の分布域ではウンピョウとトラが同所的に棲息しています。どちらも大形の野生ネコで夜行性、餌動物も共通しています。そこで、両種が共存するためには生活上の棲み分けが必要となってくるわけです。トラは主に地上生活、ウンピョウは樹上生活中心というわけですが、ボルネオにトラは分布していないため、ウンピョウが樹上も地上も生活の場として使っているというわけです。

マーブルドキャット。キナバル・ポリン公園で一時、放し飼いにされていた個体。

マーブルドキャット。キナバル・ポリン公園で一時、放し飼いにされていた個体。

 マーブルドキャットは、ウンピョウを小形にしたような野生ネコで、紋様を見る限りではウンピョウにそっくりです。頭胴長45~62センチ、尾長35.6~55センチ、体重2~5キログラム。標準の大きさのイエネコくらいで、極端に長い尾を持っています。どの個体も頭胴長と尾長がほぼ同じです。分布は2種類のウンピョウの分布域とほぼ一致しています。体型などから樹上性が強いと考えられるし、実際、飼育下で頻繁に木に登ることが観察されており、文献では野外で観察された2例は樹上だったと記されています。ただ、私が遭遇した2回はいずれも林道上を歩いていた時で、1回は日中、1回は夜の9時前後でした。轢死体も2度確認しています。当然のことながら、地上で轢かれたわけです。また、松林尚志さんが撮影マーブルドキャットは、地上に設置した自動カメラによるものでした。松林さんは、サバ州セピロクの森で長らくマメジカを研究されていました。

和名     ボルネオウンピョウ
学名     Neofelis diardi
英名     Diardi’s Leopard

和名     マ-ブルドキャット
学名     Pardofelis marmorata
英名     Marbled Cat

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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