日本全国の動物園と水族館をつなぐ情報誌、「どうぶつのくに」「どうぶつえんとすいぞくかん」公式Webサイト

どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.69 陸に棲むカメ

2016.2.25

 保育園と小学校時代のことです。川で釣りや魚捕りをしている時、ふと、カメを見つけ、この上ない喜びと興奮を覚えることがありました。ところが、手づかみか網ですくい上げる直前に決まって目が覚め、夢だったと知るのです。なぜ、頻繁にそんな夢を見たのだろうか、今でも分かりません。当時、日常の水遊びでは1度もカメを見たことがなかったから、野生のカメには憧れみたいなものがありました。

 初めて見た野生のカメはセマルハコガメで、1965年、初めて訪ねた西表島でのことでした。2年後には、やはり西表島ですが、10数匹が1ヶ所にかたまっているところを観察しました。セマルハコガメはリクガメ科ではないのですが完全な陸棲で、典型的な陸ガメの体型をしています。つまり、背甲が高く強いドーム状をしています。この体型のおかげで、万一、ひっくり返っても体が斜めになるので、簡単に元に戻ることが出来るのです。もし、クサガメやイシガメのように平たい体型だったら、とっさに起きることは出来ないでしょう。セマルハコガメは、大きくなると甲長17センチ前後になります。甲長12センチの個体で、体重は280から400グラムです。甲長とは背甲の最大長を直線で測定した値です。

マレーハコガメ。

マレーハコガメ。

 セマルハコガメを含むハコガメ類はイシガメ科ハコガメ属のカメで、インド北東部、中国南部、台湾、インドシナ半島、インドネシアなど東南アジアに広く分布し、約10種類に分類されています。日本では石垣島と西表島に分布しています。ハコガメの最大の特徴は、腹甲を形成している胸甲板と腹甲板の間に蝶番があり、腹甲が前後2つに折れ曲がることです。蝶番の発達程度は種によって異なりますが、セマルハコガメやマレーハコガメのように発達した種では、腹甲を閉じると、背甲との間に隙間が無くなって完全に蓋をすることが出来ます。これは、外敵や乾燥から頭部を守ることに役立っているように思われます。この他、背甲にキール(筋状の盛り上がり)があることも特徴の1つです。キールは幼体では明瞭ですが、成長とともに消失し、甲羅の表面が滑らかになっていきます。ハコガメに共通した習性は、川や沼地近くの湿った場所を好んで生活し、ミミズや昆虫の幼虫、おたまじゃくし、キノコや草の新芽、落下した果実などを食べていることです。湿地であってもマングローブや泥地には普通いないし、特別に渓流を好むようなこともありません。

 メスは地面に5から8センチの深さの穴を掘り、1度に1から3個の卵を産みます。卵は鳥類の楕円形やウミガメのような球形ではなく、種によって大きさは異なりますが、長径4から6センチ、短径2.5から3.5センチの細長い形をしています。孵化直後の幼体は甲長4から5センチほどです。

セマルハコガメ。石垣・西表両島、台湾、中国大陸東部に分布。

セマルハコガメ。石垣・西表両島、台湾、中国大陸東部に分布。

 ボルネオ島にはマレーハコガメが分布します。ハコガメ類中最大の種で、最大甲長21.6センチに達します。また、イシガメ科全体の中で最も広い分布域を持っています。3亜種に分類されますが、分布域はインド北東部、インドシナ半島、ボルネオ、スマトラ、フィリピン、インドネシアのスラウェシ、モルッカ、アンボイナに及びます。標高500メートル以下の平地や丘陵地帯で、小さな川や池沼近くの湿地を好んで生活しています。

 以前、ラフレシアの開花を見に、サバ州のラナウ近郊の農家を訪ねたことがありました。裏手の竹やぶにラフレシアが自生しているのです。庭先に大きなコンクリート製の水槽がありました。中ではコイやテラピアに混じってハコガメが泳いでいました。しかし、水槽には這い上がることの出来る砂地や岩がまったくありません。私は驚きました。昔、「セマルハコガメは泳ぎがへたで、長時間水の中にいると溺れる」と本で読んだことがあり、マレーハコガメも同様だと思ったからです。尋ねると、「大丈夫」との返事。ずっと、そのようにして飼っているとのことでした。後に知ったのですが、本種はハコガメ類の中で最も水棲傾向が強く、よく水に入るし泳ぎも得意なのです。これと関連して、単に湿った場所だけでなく、河川、池沼、水田、地域によってはマングローブで見られることもあるようです。植物食傾向が強いのですが、甲殻類、貝類、魚類などを含め、陸上でも水中でも採食します。

エミスムツアシガメ。

エミスムツアシガメ。

 エミスムツアシガメはリクガメ科に属する陸生のカメです。ユーラシア大陸に分布するリクガメ科では最大の種で、背甲はドーム状に盛り上がり、最大甲長が60センチに達します。頭部は大型で、吻端は突出することなく上顎の先端はやや鉤状になっています。前足が棍棒状で、トゲや瓦状になった大形のウロコで覆われています。後足と尾の間にトゲ状のウロコの塊があり、これがムツアシ(六足)の由来です。ボルネオ島、スマトラ島、マレー半島に分布するスマトラムツアシガメとインド北東部、タイ、バングラデシュ、ミャンマーに分布するビルマムツアシガメの2亜種に分類されます。森林の林床で生活し、特に沢や小沼の周辺を好み、頻繁に水に浸かります。しっとり濡れて積もっている落ち葉の所で休息する光景に遭遇することもありますが、じっとしていると気づかずに通過してしまうことが多いと感じます。むしろ、何の遮蔽物ものない林道を横切っている時などが、一番見つけ易いときです。食べ物は葉、キノコ、落下した果実、花など植物質が多く、その他昆虫類、カタツムリなど小動物、カエルなどを食べる雑食性です。卵生で、地面を掘って1度に20から50個近い卵を産みます。卵の上に落ち葉や枝を積み重ねて塚状にするそうですが、残念ながら、私はまだ見たことがないのです。

和名   マレーハコガメ
学名   Cuora amboinensis
英名   Malayan Box Turtle

和名   エミスムツアシガメ
学名   Manouria emys
英名   Asian Giant Tortoise

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

カテゴリー

カテゴリー一覧

このカテゴリーの他の記事

ページTOPへ

Copyrights © 2010 Doubutu-no-kuni All Rights Reserved.
誌面、Webにおけるあらゆるコンテンツの無断複写・転載を禁じます。