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Vol.87 ボルネオの森と動物たち その6 水上に発達する森林

2017.8.25

 ボルネオは15、000、000年前の海底が隆起してできた島で、多くが砂岩と泥岩からなっています。もろく浸食されやすい地質で、河川によって運ばれた土砂は中流から下流域にかけて氾濫原を作り、河口では干潟を発達させています。こういった地形のなかには終年水に浸っている所があります。本来、森などできるはずがないのですが、長い歴史の間には森林ができる条件がそろったときもあるのでしょう。水に適応した樹種が進出したと考えることができるし、あるいは陸の森林が慢性的な水浸しの状態になり、水に強い樹種だけが残ることもあるのでしょう。おそらくは、そのいずれも起こったと考えられます。

 水上に発達した森林では、陸生動物は恒常的に棲むことが出来ません。場所によって、樹上性のリスやサルの仲間が棲んでいたり、乾季に一時的に餌場として利用する動物もあります。しかし、概して動物が少ないことが、これらの森林の特徴です。

マングローブ

 大きな川の河口や入江の、淡水と海水が混ざりあう場所に見られる森林です。泥土が堆積し、干潮時には広大な干潟となるような環境で発達します。

 マングローブを構成する樹種は、ヒルギ科を主体として、ハマザクロ科、センダン科などさまざまですが、特にヒルギの仲間が多いようです。ボルネオには約50種のヒルギが分布します。しかし、どこのマングローブを見ても特定の数種のヒルギが優占するだけで、多くの種類が混生しているわけではありません。最もふつうに見られるのがフタバナヒルギです。八重山諸島に自生するヤエヤマヒルギと同属で、4弁の薄黄色の花をつけ、長いタコの足のような支柱根が特徴です。次に多いのがベニガクヒルギ。八重山諸島のオヒルギと同属で、赤い萼を持つ花が特徴です。支柱根は短く幹の下部に集中していたり、こぶや板根を形成しながら地面を四方に広がっています。気根が、地下茎から竹の子のように突き出しているのはホソバマヤプシキ。樹高30メートルに達し、塩分濃度の高いところで生育するヒルギです。ホウガンヒルギはザボンに似た球形の大きな果実をつける木で、マングローブの奥まった場所に生育します。ダケカンバのような樹皮をし、十分に成長した木にはいくつもの穴ができ、樹幹は空洞になっています。

 マングローブはエビ・カニなどの甲殻類や稚魚の宝庫です。水鳥にとって重要な餌場であり、渡りをするシギ・チドリの休息場でもあるのですが、定住している動物はほとんどありません。

汽水林

 汽水林はマングローブの後背地に発達し、ニッパヤシが広大な群落を形成しています。マングローブと違って、後背地から淡水が流れ込む環境です。隣接した陸生の森林からカニクイザルやバナナリスが進入しますが、恒常的に生活する動物はいません。

汽水林。ニッパヤシの群落。川沿いでは概して幅がなく、後に移行林や低地林が見られる。

移行林

 マングローブのような水上の森林と、低地混交フタバガキ林など陸上の森林との移行部に発達する森林です。ふつうマングローブかニッパの内陸部で見ることが出来ます。ニボンヤシやサキシマスオウノキが代表的な樹種です。ニボンヤシは材が頑丈で、昔から橋脚や水上家屋の脚に利用されています。しばしばミミモチシダの大群落を見かけますが、これは伐採など人為の影響があった跡です。カニクイザル、テングザルなど限られた種類のみ棲息しています。

移行林。背の高いニボンヤシが優占する。写真ではニッパヤシ、オオミフクラギなどが混生している。

淡水湿地林

 淡水湿地林は非泥炭湿地林とも呼ばれ、大きな川沿いに発達します。淡水湿地林への水の供給はおもに河川からで、その水は無機質に富み、一般にはpH6以上で中性またはアルカリ性です。水の動きがあることで好気性のバクテリアが活発に働き、高温であることも関係して植物遺体はすみやかに分解されます。したがって土壌は栄養分に富んだものとなっています。一概に淡水湿地林といっても、河川の流量・水深・地形などの条件により、成立する森林もタコノキ群落、ヤシ群落、低木林、高木林と違ってきます。また、乾季にはいく条もの水路を残して陸地化するところは季節的湿地林と呼ばれています。カエルの繁殖場であったり、イリエワニやカワウソが利用しますが、概して動物相は貧弱です。

淡水湿地林。乾季のため水位が下がり、水草が繁茂している。泥地なので踏みいることは出来ない。

泥炭湿地林

 泥炭湿地林は、特に水はけの悪いところに出来た森林です。熱帯の盆地、または流出した土砂が海岸部に堆積したため内側に湿地ができ、そんなところに発達した森林です。水の供給は直接雨からですが、たっぷり降るからいつも水浸しで、しかも、水の移動がほとんどありません。そういった環境なので、倒れた木は空気に触れず、したがってバクテリアの影響を受けず、腐敗することがないのです。泥炭とは炭化の程度がもっとも低い石炭のことで、ほとんどが未分解の植物質から成る貧栄養の土です。

 泥炭湿地林から流れ出る水はいわば泥炭の抽出液で、タンニンを多く含み赤褐色をしています。反射光、すなわち上から見ると真っ黒、透過光でも濃い紅茶色をしています。おまけにpH4。0以下の強い酸性の水です。pH4。0というのは淡水湿地林と泥炭湿地林の一応の目安となる数値で、それより高いのが前者、低いのが後者ということです。このような環境なので、魚類を含め、ほとんど動物は見当たりません。

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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