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Vol.56 シロハラクイナ

2015.1.25

 シロハラクイナはインドから東南アジア、中国南部にかけて留鳥として分布する中形のクイナです。日本では沖縄県全域に分布する他、鹿児島県、愛知県、埼玉県など日本各地で時々記録され、繁殖例もあります。最近では繁殖地を北へ広げているという説もあります。ボルネオ島では郊外の道路上で普通に見られる鳥で、交通事故に遭った轢死体の一番はシロハラクイナです。余談ですが、次に多い死体はオオバンケンという鳥です。カラスを一回り小さくしたサイズで、身体は黒色、翼と尾羽は赤茶色をしています。オオバンケンは車に轢かれるのではなく、すべて衝突死です。地上数メートルの高さを滑るようにして飛ぶので、交通量の多い国道などで事故に巻き込まれるのです。哺乳類ではスカンクアナグマ、パームシベット、ベンガルヤマネコ、コツメカワウソなどが時々轢かれています。野生動物は人が作り出した車のスピードに対応出来ないのです。

ヒシバッタらしいものをくわえている。

ヒシバッタらしいものをくわえている。

 シロハラクイナは、生活域、習性、食べ物を見る限り、典型的なクイナの1種と言えるでしょう。シロハラクイナは全長約30cm、ドバトとほぼ同大です。ただ、体型はハトとは異なり、尾が短く、頑丈で長い脚を持っています。成鳥は額から顔、胸、腹にかけて白色をしており、よく目立つ鳥です。多くのクイナは腹が白色ではなく、胸に縞模様があります。腹が白色の種類であっても胸の色が違っており、シロハラクイナを他のクイナと見間違えることはありません。頭頂部から体の上面は、やや光沢のある褐色がかった黒色。尾の下面は茶色。嘴は黄色で、基部の上側は赤い斑点になっています。幼鳥は全身真っ黒ですが、少したつと成鳥と似た体色となります。しかし、体の上面の褐色味が強く、光沢はありません。

 道路上、草原、湿地などにいる時でも、開けた場所の真ん中に出ていることは少なく、決まってヤブや草株に接した部分で食べ物を探しています。そして、危険を察知すると素早くヤブに潜り込んでしまうか、足ばやに遠ざかってしまいます。そんな習性ですから、なかなか写真に撮りにくい鳥です。経験された方も多いことでしょう。

 シロハラクイナを含むクイナ科の鳥は、南極大陸を除き、ユーラシア、アフリカ、南北アメリカ、オーストラリア、南太平洋の島々まで世界に広く分布する小形から中形の鳥です。約100種類が知られており、そのうち約15種類が日本でも記録されています。ボルネオ島では留鳥、渡り鳥を含めて19種類の記録があります。私たちにもなじみの深い水鳥、全身黒い羽毛におおわれ、額から嘴の基部が鮮やかな紅色をしているバン。日本では湖沼、川、水田、公園の池などで良く見かけますね。このバンもクイナ科の鳥です。

通常歩行では、頻繁に尾を上下に振る。

通常歩行では、頻繁に尾を上下に振る。

 クイナ科の鳥の多くはズングリした体型で頑丈でやや長い脚を持っています。茂みの中を移動するのに適した身体つきをしていると言えます。実際、多くの種類が樹上で眠り、巣を造って雛を育てるのも樹上ですが、日中の活動はほとんどが地上です。主な生活域は湿地、河川の岸辺、水田、湖沼地帯で、昆虫や小動物、魚類を捕食したり、草の種子や水生植物の根などを食べています。地球上、沖縄島の北部山地帯にのみ分布するヤンバルクイナも、日中はずっと地上で採餌と休息を繰り返します。そして、夜は地上1から2メートルの高さにある太めの枝か斜めに伸びた幹の上で眠ります。

 日本の最西南端にある八重山諸島、その中で一番大きな島が西表島です。島にある唯一の国道を車で走ると、季節毎の野鳥観察を楽しむことが出来ます。常に目に入ってくる鳥はヒヨドリとハシブトガラスです。当たり前にいる鳥ですので、ついうっかり観察記録に書き忘れたりします。一方、遭遇するチャンスが多く、それでいて「見た」という気持ちが湧くのは、枝か電柱に止まったカンムリワシと、地上を小走りに行くシロハラクイナでしょう。シロハラクイナは道路脇で小虫をついばんでいたり、車の音に驚いたのか、素早くヤブに潜り込んだり車道を横切ったりします。

危険を察知すると、すばやくヤブに潜ってしまう。

危険を察知すると、すばやくヤブに潜ってしまう。

 このように、シロハラクイナは、日中はほとんど地上で採餌や休息をしています。しかも西表島では数も多いようで、今では、イリオモテヤマネコの重要な餌動物の1つとなっています。このことは、1979年頃から1980年代初頭にかけて、イリオモテヤマネコの食性調査をした人たちの研究結果から明らかになりました。ところが、40年前は、「西表島にシロハラクイナがいる」という確かな記録はありませんでした。私は大学院の学生だった時代、足かけ5年間を西表島で生活していましたが、1970年代末まで、シロハラクイナを見たことがありませんでした。当時、私はイリオモテヤマネコの生活全体を研究テーマとして調査を進めていました。イリオモテヤマネコの食べ物は何かと言うことも大事な研究テーマの1つでした。食性調査では、ヤマネコのフンを採集して分析することが、現実的で最も重要な研究手段でした。私は1974年から1977年までに849回分のフンを採集し、詳細に分析し、内容物を明らかにしました。クマネズミ、クビワオオコウモリ、ヒヨドリ、オオクイナ、キシノウエトカゲ、何種類にも及ぶヘビ、トカゲ、カエル類。バッタや甲虫類も数多く確認されました。しかし、シロハラクイナはまったく含まれていません。私一人の鑑定ではなく、最終的なチェックは山階鳥類研究所にお願いしましたが、それでもシロハラクイナは確認されていません。つまり、シロハラクイナは1970年代後半になって西表島に定着し、急速に繁殖していったということなのでしょう。 

和名      シロハラクイナ
学名      Amaurornis phoenicurus
英名      White-breasted Waterhen

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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