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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.95 帰化動物

2018.4.25

 「大自然が残る島」。ボルネオのことを、そんなふうに思っている人も多いようです。しかし、それは誤解です。クチン、コタキナバルなど、ビルが林立する都市も多いし、レンガ造りの歴史的な建物も沢山あります。さらにブルネイのセリアやカリマンタンのバリクパパンは石油の産出地で、ヨーロッパ系の石油精製工場、オフィス、商社ビルなどが巨大な市街地を造っています。当然のことながら、人や物資の行き来と共に、もともとボルネオにはなかった動植物も世界中から入り込んでいます。

 ボルネオの街路樹、公園や庭に植えられた樹木や草花は、世界の熱帯・亜熱帯地方に共通した種類です。もともと、それぞれの原産地があり、分布も限定されていました。そんな数ある植物の中で、樹型が良い、きれいな花を付けるなどの特長を備え、熱帯の気候に合う種類が、人によって世界中に広められたのです。また、人為的ではなくとも、物資に付着するなどして侵入した植物も大変多いのです。

 動物も同じです。ボルネオでは家畜のイヌ、イエネコ、ブタ、ウシ、ヤギ、スイギュウが野生化しているか、野生化個体群がいる可能性があります。

ルサジカ。ジャワ、バリ原産。(コモド島にて撮影)。

 ルサジカは、ニホンジカと同程度の大きさで、アジアに分布するスイロクに極めてよく似たシカです。もともとはジャワ島とバリ島だけの分布でしたが、有史以前から周辺の島々へ持ち込まれ、現在はチモール、ロンボク、フローレス、コモド、スラウェシ、スンバワ、オーストラリアの一部にまで分布します。ボルネオでは、17世紀に導入された個体群が南カリマンタンに分布していました。現在の棲息は不明です。

 鳥類では、アブラヤシ農園のスマトラコブラを駆逐する目的で、2000年以降、セキショクヤケイがマレー半島から導入されました。ニワトリの原種と言われる野鶏で、日本の「地鶏」によく似ています。現時点ではサバ州デント半島の一部に限られていますが、「タビン野生生物保存区」へ向かう途中の広域な農園内でしばしば目撃されます。

 コオオハナインコモドキは、中型のインコで、フィリピンの他、ボルネオ北部では数ヶ所局地的に分布していました。しかし、多分、食用や愛玩用として乱獲され、ほとんどの分布域で姿を消してしまいました。現在、コタキナバルのタンジュンアルー海岸の海岸林に、約50羽が棲息しています。これは、絶滅後、フィリピンから導入した個体群と言われています。

 メクラヘビ、ヤモリ、トカゲ、カエルの中には、物資に紛れてボルネオに到達した種類もあると考えられますが、詳細は分かりません。

コオオハナインコモドキ。サバ州では絶滅後、同種をフィリピンから導入。

 マダラロリカリアは古代の甲冑魚のような形をした魚で、日本ではプレコの名称で観賞魚として売られています。体は長く縦扁、全長50センチにも成長します。各ひれとも大きいのですが、特に尾びれは大きく発達しています。ひれを含めて全体が黒褐色で、淡色の細かなまだら模様がはいっています。底生の魚で、口は下方に開き吸盤状になっています。付着藻類や底生動物を食べているようです。酸素の少ない所でも空気呼吸が出来、カリマンタンでは表面が半乾きになった泥沼にも棲んでいました。原産はアマゾン川水系のマデイラ川。しかし、現在は世界の熱帯・亜熱帯で広く野生化しています。

 ティラピアはアフリカと中近東原産の魚ですが、世界の熱帯・亜熱帯に広く導入されました。ボルネオでは都市近郊の河川や、マングローブの汽水域で、群れを作っています。その中には、食用として養殖したピンク色のティラピアも混じっています。

 この他、コタキナバルやサマリンダなどの都市では、排水路でグッピーやタップミノ(カダヤシ)が繁殖しています。大潮の満潮時には側溝の蓋の隙間から、吹き出してくるほどの数がいるのです。

マダラロリカリア。カリマンタンで捕らえた個体(写真は腹面)。

 ピナンパンやパパールは、サバ州の名だたる水田地帯です。ここの農道を走ると、脇にある水路の壁面に、鮮やかなピンク色をした粒々がびっしり付着しているのが分かります。少し離れた所から眺めると、壁全体がペンキで塗られたように見えるほどです。この正体は、スクミリンゴガイという巻き貝の卵です。成体は殻高5~8センチに達する大型の巻き貝で、卵を水面から離れた水路の壁面や植物体に産み付けるのです。雑食性で、イネを食害するという大きな問題を引き起こしています。原産は南アメリカのラプラタ川流域ですが、現在では世界の熱帯・亜熱帯で広く野生化しています。日本ではジャンボタニシという名称で知られ、赤提灯で「サザエ」として提供された時期もありました。

 アフリカマイマイは、さらに大きな巻き貝です。成貝の殻径が7~8センチ、殻高が20センチ近くに成長する世界最大級のカタツムリです。東アフリカのモザンビーク、タンザニアあたりのサバンナ地域が原産ですが、現在は世界の熱帯地域のほとんどに分布しています。あらゆる植物の芽、葉、茎、果実はもちろんのこと、動物の死骸や菌類なども食べる雑食性です。特に農作物を壊滅させるほどの食欲と繁殖力、さらには好酸球性髄膜脳炎の病原体である広東住血線虫の中間宿主という厄介者ですが、ほとんどは食用目的での導入が、世界中に広がるきっかけでした。

 自然界は、本来その土地の気候風土に合った動植物で成り立っています。人為的に持ち込んだ生き物が、予期せぬ弊害をもたらすことになります。アジアでもっとも自然が残っていると言われるボルネオ島でも、同様の問題が起こっているのです。

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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