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Vol.62 マライヤマネコ

2015.7.25

 現在、世界のネコ科動物は14属37種に分類されています。ライオン、トラ、ヒョウなどは大形ネコ類と総称され、咆哮することなどが共通した特徴です。ヤマネコ類は小形ネコ類と総称されます。その中で、ベンガルヤマネコ属はハイイロヤマネコ、マライヤマネコ、スナドリネコ、ベンガルヤマネコの4種で、いずれも東南アジアからインドに分布の中心を持つ仲間です。

 マライヤマネコは、タイ南部からマレー半島、スマトラ、ボルネオに分布するヤマネコです。頭胴長44.6から52.1センチ、尾は大変短く12.8から16.9センチ、体の長さの25から35パーセントくらいです。体重はオス、メスほぼ同じで1.5から2.5キログラム、決して大きなヤマネコではありません。

獲物を探して川岸林を歩く。

獲物を探して川岸林を歩く。

 全体は赤っぽい褐色に見えますが、体毛の多くは先端が白色か灰色で、全体に厚くフワーッとしています。横腹は赤茶色に白色や灰色の刺毛が混じります。頭の上部は赤褐色。腹面はまだら模様が入った白色。頸から胸にかけては白色です。また、口の周囲と顎も白色です。正面から見るとイエネコによく似ています。ただ、鼻の両側にある白い縦線と目を縁取る白線が際立ち、大きな両眼がグッと鼻に近いので、イエネコとは違った野生の迫力が感じられます。短足、長くて扁平になった頭部、耳は小さくて丸味を帯び、両耳の間が離れています。典型的なネコからは遠く、むしろイタチ科に似ていると言えるでしょう。英名ではフラット・ヘッディド・キャット(頭が平たいネコ)と呼ばれています。

 マライヤマネコの野外研究はほとんどされていません。世界の博物館が所蔵する標本は、多くが川や湖沿いに発達する川岸林、淡水湿地林、氾濫原で捕獲されたものです。つまり、そのような環境で生活しているのでしょう。氾濫原とは河川が運んで来た砂や屑が堆積して出来た土地のことで、大河沿いに発達、増水時には水に浸かる場所です。多くの野生動物と遭遇出来るキナバタンガン川の下流域の川岸林、これらはすべて氾濫原に発達した森林です。この他、フタバガキの原生林や伐採後の二次林、アブラヤシやゴム農園で目撃されることもあり、人為的な環境にもある程度適応していることが考えられます。

正面から見ると、どことなくイエネコに似ている。

正面から見ると、どことなくイエネコに似ている。

 水辺で生活していることと相まって、食べ物の多くを魚類、カニやエビに頼っています。その他、カエルや、ネズミなどの小哺乳類を捕食しています。1度、フタバガキ林をつらぬく道路でマライヤマネコの交通事故死体を見つけたことがありました。内臓が破裂して食べたものが出ていたのですが、すべて川魚のうろことテナガエビの殻でした。現場は標高160メートルで近くに大きな川はありません。おそらく、森林地帯でも沢沿いで生活し、魚やエビを捕食するのでしょう。飼育の時も鳥肉よりはむしろ魚を好んで食べました。

 マライヤマネコが水辺の環境に適応しているということは、歯の特徴からも裏付けられます。ネコ科動物の歯はほとんどの種で合計30本です。上顎では切歯3対、犬歯1対、前臼歯3対、臼歯1対です。このうち前臼歯の前2対がマライヤマネコでは大きく発達し、鋭く尖っています。これは滑って掴みにくい獲物、特に魚、エビ、カニを掴むのに適した歯で、同様に川魚などを主食とするスナドリネコも同じ特徴を持っています。さらに、手足の指の間の皮膚と体毛が発達し、水かき状になっています。

水際で魚を狙っている。

水際で魚を狙っている。

 私は半年ほどマライヤマネコを飼育したことがあります。とてもおとなしいネコで、飼育舎は6畳ほどの広さでしたが、私が中に入っても、無理矢理近づかない限り威嚇したり怯えたりすることはありませんでした。興味深かったことは、夜、地面に埋め込んだ深さ30センチのたらいの縁に立っては、手を水に入れてさかんに動かしたりするのです。ちょうど魚でも捕るようなしぐさです。また、我々が風呂でくつろいでいる時のようにタライの中に入って首まで水につかり、何もせずに30分もじっとしていることさえありました。

 ネコが水の中に・・・。不思議に思う人もいるかも知れません。しかし、ネコの仲間からしたら、水を嫌うイエネコがむしろ例外的な存在なのです。多くのヤマネコは水を嫌がらないし泳ぎも巧みです。イエネコが水を嫌うのは、乾燥地帯に棲むヤマネコを祖先にもつ家畜だからと言われています。これまでの説では、約4000年前にエジプトあたりで家畜化されたと言われてきました。しかし、1万年前の人の墓からイエネコの骨が出ています。つまり、それ以前に家畜化されたと言うことです。場所も中近東あたりというのが、最近の学説です。

 マライヤマネコは夜行性で、ほとんど地上で生活しています。夜行性といっても、飼育下で観察した限りでは日没後2時間くらいと、夜明けから10時頃の間に最もよく動き、真夜中は休息していました。夜行性動物と言っても、ムササビのように夜間だけ活動するものは少なく、夕方遅くと朝方に活動のピークをもつ薄明薄暮型がほとんどです。

 シカやイノシシなど狩猟の対象となる動物に関してはこんな考え方があります。もともと昼間でも活発に活動する仲間であったが、長い狩猟圧のために日中の活動を避けるようになった。しかし、完全な夜行性にはなりきれず、夕方と朝方に活動するというのです。だから、人気のない山奥では日中でも活動しているわけです。一方、肉食動物にとって薄明薄暮は獲物を捕らえる最良の時間帯なのでしょう。カエルやヘビ、ネズミが倒木下や穴から出て活動し、同時に昼行性の鳥が休んでいる時だということです。

和名     マライヤマネコ
学名     Prionailurus planiceps
英名     Flat-headed Cat

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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