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Vol.77 ボルネオスローロリス

2016.10.25

 スローロリスは夜行性の小さなサルです。つまり眠っているのは日中ということですが、寝姿はまるで「毛鞠」のようです。木の幹を背にして、背を大きくまげて枝の付け根に座ります。両膝で頭を挟むようにし、さらに頭を包み込むように両腕を回しています。どの方向から見てもまん丸で、一見しただけでは、頭がどこにあるのか分かりません。でも、こうして寝ている姿を森の中で発見することは、まずありません。手の平に載るほどの小さなかたまりですし、すぐ見つかるような場所では眠らないのです。そんなことをしたら、たちまち、肉食動物やワシ・タカ類の餌食となってしまうでしょう。私が見てきたスローロリスの寝姿は、もちろん、飼育下のものです。

 カリマンタンで生活していた頃、近くの村人から「毎晩、コカーンが来る」という情報をもらいました。コカーンとはインドネシア語でスローロリスのことです。庭のグネツム(グネモン)が実ると、それを食べにやって来て、長時間滞在していくというのです。

 作業人夫のジャマル君を後に乗せ、私はバイクで出かけました。はたして、その晩もスローリスは居り、朱色に熟したグネツムの実をむさぼっていました。しばらく観察し写真も撮りましたが、スローロリスに去る気配はありません。そこで、「調べたいから」と言って、捕らえてもらうことにしました。「待ってました」と言わんばかりに、ジャマル君は手を伸ばし、背後から首筋を掴み上げました。素手のままです。彼は、サソリでもタランチュラでも、ある時はセンザンコウ、ネズミヤマアラシでさえ手づかみにしていました。私は、さすがに素手では出来ません。皮手袋をはめました。スローロリスは顔に似合わず凶暴なのです。鋭い牙がグイグイと皮手袋に食い込んできました。

枝から枝を巡って昆虫を探す。

枝から枝を巡って昆虫を探す。

 霊長類の中で、キツネザル類、ロリス類、ガラゴ類は曲鼻猿類と呼ばれるグループに分類され、同時に原猿類と総称されています。原猿類にメガネザルを含む考え方もあります。

 このうちロリス科は前肢と後肢が同じ長さ、丸い頭、大きな眼、小さな耳、枝を掴むことが出来る手と足、退化した短い尾が共通した特徴です。4属12種に分類され、エチオピア区(アフリカ)に分布するアンワンティボ類、ポットー類と、東洋区(アジアの熱帯)に分布するロリス類に2分されます。

 ロリス類(ロリス亜科)はロリス属とスローロリス属の2属からなり、前者はインド南端とスリランカに2種が分布します。スローロリス属は東南アジアに分布し、これまで2種とされてきました。そのうちピグミースローロリスは分布がベトナムとラオスに限られます。もう1種はアジア大陸のアッサムから東南アジア、スマトラ、ジャワ、フィリピン南部、ボルネオに分布するもので、同じ「スローロリス」として扱われてきました。しかし、形態的特徴からの分類に加え、新たに遺伝学的分類(DNA分析)が加味され、4種に分けられました。ベンガルスローロリス(アッサムから東南アジア)、スンダスローロリス(マレー半島とスマトラ島)、ジャワスローロリス(ジャワ島)、それにボルネオスローロリスです。ボルネオスローロリスは、ほぼボルネオ固有種と呼んで差し支えないのですが、スマトラ東海岸のバンカ諸島、フィリピン南部のスルー諸島にも分布しています。

丸顔で眼が大きい。

丸顔で眼が大きい。

 ボルネオでは、全島的に低地から山地にかけて棲息し、特に二次林や灌木林で目撃することが多いように感じます。キナバル山では標高1,300m以上からの記録があります。また、果実の季節には、ランブタンやグネツムなどを求めて人家の庭先に進入することもしばしばあります。私はカリマンタン、ブルネイでは農家の庭で、サバではキナバタンガン川の川岸林、タビン、ダヌムバレーでも遭遇しています。「ボルネオ島のどこにでもいる」という印象をもっている反面、個体数が多いわけではなく、従って、探そうとしても簡単に見つけられる動物ではありません。

 頭胴長19.9から27.5センチ、尾長1.2から2.5センチ。尾は尻の毛のなかに隠れていて、外からは見えません。耳も1.9センチと小さく、目立ちません。体重は230から610グラム、歯はメガネザルと同じ34本です。ちなみに他のサルはヒトと同じ32本です。毛は柔らかく密にはえ、体色は個体により変異がありますが、灰褐色から赤みがかった褐色で、頭から背中の中央部または尾の付け根あたりまで幅広い濃い褐色の筋があります。眼は大きく正面を向いていますが、眼の周囲が幅広く黒くふちどられ、眼鏡をかけたような模様になっています。手の第2指は短く、また、足の第2指は短い鉤爪になっていて、体をひっかいたりするときに使われます。他の爪はすべてヒトに似たひら爪になっています。また、手足の親指が他の指と対向するので、ヒトと同じように枝を握ることが出来ます。

手足で枝を握ることが出来る。

手足で枝を握ることが出来る。

 ほとんど樹上で活動、普段は単独生活です。移動は四足歩行ですが、多くのサル類と異なり、木登りもごくゆっくりですし、ジャンプするようなことは決してありません。ただし、林が途切れ、やむを得ず林道を横切るときなどは、ヒトが大股で歩かなければ追いつかないくらいのスピードで走ります。

 食べ物は昆虫を中心に、鳥の卵などの動物質や、若い葉、果実など植物質も摂っています。バッタやセミなどを見つけると、可能な限り接近し、目にもとまらぬ速さで手づかみします。移動の際のゆったりした動きからは、到底想像できない素早さです。捕獲や飼育はどこの国でも禁止されているのですが、町から離れた村ではカゴに入れたり、細い鎖で繋いで飼っているのを見かけます。そんな家では餌としてバナナなど果物を与えています。

和名   ボルネオスローロリス
学名   Nycticebus menagensis
英名   Bornean Slow Loris

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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