日本全国の動物園と水族館をつなぐ情報誌、「どうぶつのくに」「どうぶつえんとすいぞくかん」公式Webサイト

どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.89 ボルネオの森と動物たち その8 森林の立体構造

2017.10.25

 同じ面積のゴルフ場と森林、どちらのほうが豊かな生物相を有するのか。言わずとも明白なことです。また、日本の森林を平屋建てのスーパーマーケットに例えると、熱帯多雨林は3階建てのショッピングモールです。建坪が同じであっても、床の総面積に違いが出てくる。この巨大な立体構造に支えられた生物の多様性が、熱帯多雨林の魅力でしょう。ボルネオでは森林の高さが30~50メートルにもなります。そして、同じ一つの森林であっても太陽からの光の量や水分、空気に含まれる化学物質の量の違いなどから、様々な異なる環境が出来ています。それは大きく分けて3つ。林床部、低層部から中層部、高層部です。林床部には草本、木々の稚樹、潅木、地表性のコケなどが茂っています。低層部から中層部では高木の幹が林立し、空間をツル植物、シダやランなどの着生植物が埋めています。高層部では、高木の樹冠が森林の屋根を作り上げています。この異なる環境を、そこに最も適した昆虫や、カエル、トカゲやヤモリ、鳥、哺乳類といった色々な動物群が生活圏としています。同じ一本の木であっても、樹冠、幹、林床の違いは、動物にとっても、まったく違った生活圏になっています。見かけ上は一つの森林、じつは、様々な生態系の複合体であること。これが熱帯多雨林における生物多様性の本質です。

 ジムヌラやトガリネズミの仲間はもっぱら地上性。倒木や石の下に潜み、地上で昆虫や小動物を捕食しています。

ヒガシボルネオハイイロテナガザル。完全な樹上性。ブラキエーション(枝渡り)が得意な移動手段。

 ツパイの仲間はハネオツパイとミナミホソオツパイが樹上性、他の8種のツパイは地上性、木に登ることはあっても、丈の低い潅木林の中だけです。小昆虫や熟した果実が主な食べ物です。ヒヨケザルは完全な樹上性。しかも、ほとんど樹冠部だけで生活していますが、発達した皮膜を持ち、林内の空間を滑空で移動することが出来ます。

 コウモリは熱帯雨林にもっとも良く適応した動物群です。コウモリについては、次回、詳細に話します。

 霊長類を見てみましょう。テナガザルやオランウータン、リーフモンキーは樹上性のサルで、樹冠部で一生を送ります。森林が寸断されていなければ、地上に降りることはありません。テングザルも樹上性ですが、マングローブや川岸林に限って生活しています。カニクイザルとブタオザルは同じマカク属のサルで、樹上でも地上でも活動します。しかし、強いていえば、前者は樹上性、後者は地上性です。どちらも果実や若い葉、昆虫類などを食べ、普通に樹上で活動し、寝るのも木の上です。一つの木の上で一緒に採食している光景も頻繁に観察されます。また、同様に地上でも活動し、落下した果実や草の新芽をかじったりもします。では、どうして「樹上性」、「地上性」と分けるのかというと、人や猛禽類などが接近し危険を感じたとき、カニクイザルは枝から枝を伝って逃げます。地上にいた時は一斉に木に登ります。一方、ブタオザルは地上を走って逃げます。樹上にいた時は、いち早く地上に降りて逃げます。食べ物も共通しているので、こんな形で棲み分けをしているのです。霊長類のほとんどは昼行性ですが、スローロリスとメガネザルは夜間に限って行動し、主に昆虫類を捕食しています。センザンコウはほぼ完全な地上性で、地中や地表、あるいは木の低い部分に作られたアリ塚を暴いて、シロアリを主食としています。

ミスジパームシベット。樹上性で熟した果実を食べている。

 リス類はどうでしょう。クリームオオリスは深いうっそうとした森林の樹冠部でのみ生活します。コビトリスの仲間、ミケリスやバナナリスの仲間も樹上性ですが、明るい二次林や果樹園などにも進入します。スンダリスの仲間も多くが樹上性です。しかし、チビオスンダリスのようにほとんど地上と潅木の中だけで生活し、高い木には登らない種類もあります。ボルネオカオナガリスは山地性で、地上でのみ生活しています。ウサギくらいの大きさがあるフサミミクサビオリスも地上性です。リスの仲間は、ボルネオに34種が分布し、多くが樹上性です。ネズミ類25種よりはるかに多いのは、やはり熱帯雨林の立体構造に関係しているのです。さらに、同じリス科でも、空間を滑空して移動出来るムササビ類が14種もいるのも、同じ森林の立体構造からだと言えます。リス科でも、リスとムササビは同じ生活圏を昼と夜とで時間的に棲み分けています。

 ネズミ類ではハイイロキノボリネズミやキノボリマウスの仲間が完全な樹上性、オナガコミミネズミやクリゲネズミの仲間は主に樹上性ですが、採食のために頻繁に地上に降りてきます。スンダトゲネズミやクマネズミの仲間は種類も多いのですが、すべて地上性です。タカネクマネズミ、オオヤマクマネズミも地上性ですが、分布は高山に限られます。 マレーグマは地上性の動物ですが、上手に木に登り、木の枝を裂いて蜂の巣を食べたりもします。ウンピョウは樹上性、しかし、ボルネオのウンピョウは地上でも獲物を捕食しています。これはボルネオには競合するトラがいないからだと言われています。ハダシイタチ、スカンクアナグマなどは地上性ですが、キエリテンは数頭の群れでいるところを、樹上で目撃することがあります。

ブタオザル。地上中心の生活だが、木にも良く登るし、寝るときは常に樹上。

 ジャコウネコの仲間もジャワジャコウネコのように地上中心の種類や、タイガーシベットやパームシベット、ハクビシンのように地上も樹上も利用するもの、ビントロングやミスジパームシベットのように完全な樹上性のものまで、それぞれ棲み分けが見られます。

 ゾウ、サイ。そして、シカ、マメジカ、イノシシなど偶蹄類のすべてはもっぱら地上での生活をしています。

 以上のように個々の動物の生活の場の違いを見てみると、熱帯雨林の伐採がいかに多くの動物の生活を圧迫しているかが理解出来るでしょう。森林が原野に変わってしまったら、ほとんどの動物が生きていけなくなるのです。

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

カテゴリー

カテゴリー一覧

このカテゴリーの他の記事

ページTOPへ

Copyrights © 2010 Doubutu-no-kuni All Rights Reserved.
誌面、Webにおけるあらゆるコンテンツの無断複写・転載を禁じます。