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Vol.88 ボルネオの森と動物たち その7 森林の減少と動物

2017.9.25

 ボルネオ島は、かつては全域が森林に覆われていました。生き物は、外来種を除き、すべて森林に起源を持つ種類です。今回は私が考えた図をもとに話を進めます。

 まず、植生と生息圏についてです。前回までに話したすべての森林型が並んでいます。全体の左半分は自然林。右半分はプランテーションや屋敷林などの人工林、草原、市街地など本来の森林がなくなった地域です。草原というのは原野あるいは荒野と理解してください。右の下半分は、もはや動物が棲むことのない地域です。かつては水上に発達するタイプの森林がありました。現在は、エビや魚の養殖場、ミミモチシダや籐が茂る湿地上の原野に変わっています。カワウソが通ったり、水鳥が採餌に訪れることはあるものの、恒常的に棲む動物はいません。

 ボルネオでは、低地混交フタバガキ林の原生林と古い二次林で、生き物の多様性と数の豊かさが見られます。川岸林と低部山地林が、それに次ぎます。他は特殊な環境に生育した森林で、生物相は概して貧弱です。ボルネオでも古くから人の営みがありました。その結果、厳密な意味での原生林はすでにありません。現在は,基本的に攪乱されていない森林,伐採あるいは焼畑後のさまざまな段階の二次林,人工林,農園,耕作地,耕作や放牧後の原野,そういった植生がモザイク状に分布しています。

植生と生息圏

 ボルネオの生き物は深い森林に棲んでいました。しかし、森林の減少や環境の変化にともない、動物もそれに対応しながら生きてきました。対応できないものは,絶滅するしかなかったのです。新しい、比較的明るい二次林に多い動物の例として、アカオツパイ,センザンコウ,ジムヌラ,ミケリス,ヤマアラシなどが挙げられます。バナナリスに至っては人為的な環境に適応し、もはや、深い大きな森林には戻ることが出来ません。

 自然林がない場所にも、動物の活動を見ることができます。アブラヤシの農園には隣接した森林からたくさんの動物が進入しています。アジアゾウ、ヒゲイノシシ、マレーグマ、スイロク、キョン、ジャコウネコ類、ブタオザル、カニクイザルなどです。熟した果実や若葉を餌の一部としているのです。ただ、食べ物が単一なことと、棲み家となる場所がないために、恒常的に棲む動物はいません。

 屋敷林といえば、日本では台風や北風から家を守るための防風林あるいは防潮林としての役割を果たしています。ボルネオでは強い陽射しからの遮光の役割がありますが、ほとんどは自家消費用の果樹を植えています。ランブタン、マンゴー、マンゴスチン、ミズレンブ、ボンタン、バナナ、パラミツ(ジャックフルーツ)、コパラミツ、パンノキ。皆さんが知っている熱帯フルーツは、すべて屋敷林にあります。後ろ3つの果物は、未熟なうちに野菜として使います。このような果物を「果菜」と呼んでいます。

ヒゲイノシシ。ほとんどの森林や開発地域に分布、産仔数も多いので指標動物には向かないだろう。

 市街地にある屋敷林には小鳥が多く訪れるものの、哺乳類ではバナナリスくらいです。しかし、村落では屋敷林はふつう背後の丘陵や山の森林と繋がっています。果物を求めて、夜な夜なさまざまな動物がやってきます。

 原野に棲む哺乳類はいません。ボルネオには、日本のハタネズミ、ヤチネズミ、カゲネズミのような草原性のネズミがいないのです。原野で見かける哺乳類といったら、ヘビやトカゲ、昆虫類を捕食するハダシイタチか、たまに川から川へ近道をするカワウソくらいです。

 クマネズミ,ナンヨウネズミ、ハツカネズミは村落の庭か家屋内。ドブネズミと、トガリネズミ科のジャコウネズミに至ってはネオンまたたく市街地にのみ棲息しています。厄介な害獣なのですが、ヒトの世界に適応した最も優れた野生動物ということです。

 我々が効率よく頻繁に動物の観察が出来る森林は、かつて択伐があったものの,高木が十分に残る二次林です。比較的良い状態の森林であり、しかも、林道や歩道があるからです。ただ、多くの動物に会えるからといって、動物が二次林に適応し,好んで生活しているということではありません。かれらは,手つかずの深い森林があったら、そこから出てこなかったでしょう。

生態ピラミッド

 次は生態ピラミッドの図です。生態系とは、自然環境とそこに棲む生き物をひとまとめにした概念です。ピラミッドの低部が植物食の動物(第一次消費者)、上が肉食動物(第二次消費者)です。下に位置する生き物ほど個体数が多く、高次の肉食動物は個体数が少ないことを表しています。教科書などで見かける図ですね。

 この図に、私の考えを載せてみました。ボルネオの哺乳類を食性によって分け、体重の軽い順に左から右へ並べました。ただ、すべての動物が全域に一様に分布しているわけではありません。場所によっては、もともといなかった種は除外して考えることが必要です。

 ピラミッドは低地混交フタバガキ林の上に成り立っています。森林は伐採や開発により右から左へ消失していくわけですが、この時、ピラミッドは右から崩れていくのではありません。ピラミッドは形を維持しながら縮小していくのです。つまり、森林の消失で、大形のゾウやサイが絶滅しても、他の動物は健在というわけにはいかないのです。大形動物が減少する時点で、例えばマレーグマ、オランウータン、ウンピョウにも影響が出ているということです。

 そうなると、任意の森林で動物の調査をおこない、特定の種がいるのか、いないのかで、森林の破壊の度合いあるいは健全度を測ることが出来そうです。例として、バンテンは深い森林にのみ棲息する大形の動物です。以前は広くボルネオ全域に分布していました。ですから、バンテンの棲む森林はボルネオでも一番よい状態の森林だということになります。ただ残念なことに,そのような森林は急速に減少し,バンテンと出くわすことも,めったになくなってしまいました。

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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