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Vol.86 ボルネオの森と動物たち その5 陸上に発達する森林(2)

2017.7.25

石灰岩台地上の森林

 石灰岩は熱帯・亜熱帯の海で出来たサンゴ礁が起源です。ここでは単純な構造の小さな森林しか見ることが出来ません。しかし、乾燥した石灰岩土壌という特殊な環境に適応した植物が多く、他にフタバガキ科をはじめ、クワ科のガジュマルやイチジクの仲間が豊富です。鍾乳洞が発達するので、アナツバメや食虫コウモリが、ねぐらとして定住しています。林内にはブタオザル、カニクイザルの他リス類、ツパイ類も棲息しますが、鳥類と比較して、哺乳類相は貧弱です。

川岸林。大きな川の中流から下流域にかけて川沿いに発達している。

超塩基性土壌上の森林

 超塩基性土壌は植物にとって有毒な成分が多く,ここに成立する森林は構造的にも種類構成も,他の森林と大きく異なっている,概して単純な構造の小さな森林です。定住する動物はほとんどないのですが、リス・ネズミ類、ツパイなどが餌場として利用しています。

泳ぐヒゲイノシシ。川岸林では泳ぐ動物との遭遇があります。テングザル、カニクイザル、アジアゾウ。必要とあれば陸生動物もふつうに泳ぐことができます。

ケランガス(熱帯ヒース林)

 熱帯ヒース林は北欧のヒース林に対してつけられた名前で,溶脱された貧栄養の砂質土壌に出来た森林のことです。「イネが育たない土地」を意味するケランガスという現地語が学術用語になっています。樹高は低く、20メートルが限度です。森全体が変化に乏しく一様に見えますが,樹冠部は小さな葉が密に重なり合い,うっぺいしています。林内には着生植物,アリ植物が特に多く,多少とも開けた場所ではウツボカズラの群落が発達しています。林内には若干のネズミ類、リス、ツパイなどが見られますが、動物が定住できる環境ではありません。ケランガスから流れ出る川はタンニンを多く含みコーヒー色を呈し,強い酸性をしています。魚類をはじめ、ほとんど生き物の気配は感じられません。

白サギ類。日本の秋から冬にあたる期間、川沿いでは留鳥も一緒になって翼を休めています。コサギ、ダイサギなど数種類の混成部隊です。

川岸林

 川岸林は大きな川の中流域から下流域にかけて川沿いに発達した森林です。ただし,海水が混じる場所は別のタイプの森林となります。大雨があると一時的に水に浸かり、下流域では大雨の後、1ヶ月も水に浸かっているところがあります。

 この森林を代表する植物はフタバガキ科のハガカック,レサックイリアン。前者は種子に30センチもある翼を付けています。食用にもなるフサマメの仲間。バユールジャワ,ルバンニンジンボク。黄色のきれいな花をつけるシンポー(ビワモドキ)の仲間。タイヘイヨウテツボク,ビヌワンなどです。

 ボルネオ島では、大昔から川が重要な交通網でした。そのため、町や船着場を作るために真っ先に開発され,石やコンクリートで固められてしまったのが川岸林です。しかし、ボルネオ島の多くの地域は、海底が隆起したもろい砂岩で成り立っています。そのため、開発した後背地からの土砂の流出を止めたり,田畑や村落を川の浸食から守るため,意識的に残してきたのも川岸林なのです。隣接した低地混交フタバガキ林など、ほとんどの森林が伐採されてしまった現在、川岸林は動物たちの最後の駆け込み寺となっています。そのため、昔はほとんど見ることが出来なかったアジアゾウやオランウータンとの遭遇も期待出来る場所になっているのです。コツメカワウソ、ビロードカワウソ、マライヤマネコ、テングザル。鳥類ではアジアヘビウ、コブハシコウ、コウハシショウビン。イリエワニなど本来、そのような環境に棲む動物はもちろん、数種類のリーフモンキー、カニクイザル、ブタオザル、ジャコウネコ、ヤマネコ、実の多種多様な動物が棲息しています。

コオオハナインコモドキ。ボルネオ島では、もともと少ない鳥です。確実に観察できるのはタンジュンアル海岸の放逐した個体群だけです。

海岸林

 離島や海岸沿いの砂地に発達する森林です。典型的な沖縄の海岸風景と良く似ています。広がる砂浜。海岸林の最前線はグンバイヒルガオ,スナズル、クロイワザサなどが混じる草本植生です。後方はオオハマボウ、クサトベラ、モンパノキなど、さらに後方はモクマオウが高く成長しています。ここにはオカガニ、オカヤドカリ、フナムシなど甲殻類が非常に多く棲息しています。餌を求めてサギ類、シロガシラトビ、シロハラウミワシ、ナンヨウショウビンなど海浜を猟場にする鳥類が見られますが、海岸林に定住する哺乳類はありません。

 コタキナバルのタンジュンアル海岸は、市街地の延長上にある公園です。ここの海岸林にはバナナリスと、放逐したコオオハナインコモドキが50羽ほど定住しています。

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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