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Vol.68 トビトカゲ

2016.1.26

 公園のベンチに腰を下ろし、一休みしていた時です。脇の木から何かが飛び出して、スーッと空をすべりました。一見トンボかと思ったのですが、それにしては大きすぎます。細くて長い尾、扇状の大きな翼から、じきにトビトカゲだと分かりました。それは10メートル離れた木の幹に止まったかと思うと、休むこと無くスルスルと幹を駆け上り、1メートルほど登ったところで、ようやく静止しました。ところが、良く見ようと近づくと、螺旋を描くように幹の裏側に回り込んでしまいました。さらに近づいて覗き込むようにすると、ふたたびスルスルと、ずっと上のほうまで登って行ってしまいました。

 「空飛ぶトカゲ」。初めてボルネオを旅する人には想定外で、目撃した時でも、それが何であるのか、判断に苦しむことでしょう。しかし、決して珍しいものではなく、良く晴れた日中の森では、ふつうに見ることができる生き物です。

 現生の爬虫類はカメ目(約500種)、ムカシトカゲ目(2種のみ)、ワニ目(23種)、有鱗目の4つの目に分類されます。有鱗目はヘビやトカゲの仲間で、トカゲ亜目(4000種以上)、ヘビ亜目(3000種以上)、ミミズトカゲ亜目(約160種)に分類されます。

ツノトビトカゲ。オスの咽喉垂(写真左下)。

ツノトビトカゲ。オスの咽喉垂(写真左下)。

 トビトカゲは、トカゲの中でも広い意味でのキノボリトカゲ(アガマ科)に含まれる1グループです。インド南部、中国南部、インドシナ半島からマレー半島、スマトラ、ジャワ、ボルネオなどインドネシアの島々、フィリピンと、南アジアに広く分布し37種類に分けられます。私たちに馴染みのあるトカゲ(トカゲ科)も同じトカゲ亜目の動物ですが、トビトカゲとは離れているグループです。

 トビトカゲは「飛ぶトカゲ」の意味です。正確には、昆虫や鳥のように自力で飛ぶのではなく、木から勢いよく飛び出して滑空するのです。トビトカゲには四肢があります。つまり、鳥のように前肢が特殊化して翼になっているのではありません。翼の役割を果たすのは、胸の両側に広がる皮膜(飛膜)です。これは、肋骨が体の外にまで伸びて皮膚の膜を支え、翼状になったものです。皮膜を支える肋骨の数は5から7本と、種類によって異なります。滑空は、ふつう5~10メートルの距離ですが、ジャワトビトカゲは18メートルも飛ぶそうです。首の側面には、副翼といって襞状に広がる皮膚があります。これも、滑空の役に立っています。すべての種類が全長20から25センチ、尾が全長の半分から3分の2を占めています。尾が特別に長いのは一般に樹上生活をする動物に共通する特徴で、細い木の枝を歩く際や滑空の時にバランスをとる器官として働くのだと考えられています。また、オスに限って、喉には咽喉垂と呼ばれる三角形に広がって伸びる皮膚が発達しています。また、一般にオスのほうがメスより大きな体をしています。

 樹上棲で、深い森に棲む種類もあれば、マングローブや明るい二次林、や村落内の林を好む種類もあります。樹上ではほとんど常に幹に張り付いています。横枝にいる姿を見ることはあまりありません。不用意に近づくとかなりのスピードで幹を駆け上がり、幹の裏側へ回って身を隠すように静止します。活動が日中なので、この時間帯、ワシ類やショウビン類などトカゲを襲う鳥類を恐れる行動なのでしょう。

イツスジトビトカゲ。首の両側の広がりが副翼。

イツスジトビトカゲ。首の両側の広がりが副翼。

 飛び立つ場所は幹の中途ではなく、決まって枝がたくさん出ているあたりか、幹を十分に登りきったあたりです。細い幹ですと、力を込めて揺さぶれば、たいてい飛び出す姿を見ることが出来ますが、十分に太い幹となると、ドンドンと足で蹴ったところで、トビトカゲは飛んでくれません。

 小昆虫を捕らえて食べますが、主な食べ物はアリとシロアリです。朝、露が消えない時間帯には木の根っこ近くでじっとしています。初めてに見つけた時には、「弱っていて、じきに死ぬんだろう」と思ったほどでした。実際はそうではなく、体が十分に温まらないと活動できないのか、あるいはシロアリを待ち伏せしていたのかも知れません。こんな時は簡単に手づかみで捕獲することができます。繁殖形態は卵生、地中に卵を産みます。産卵数は種類により違いますが、1~5個、10×17ミリ前後の長円形の卵を産み、40日前後で孵化します。

早朝は木の根元にいることが多い。

早朝は木の根元にいることが多い。

 トビトカゲは、ボルネオ島には10種類が分布します。しかし、固有種はエンガノトビトカゲ1種類のみです。このうち、普通に目撃されるのは下記の2種類です。

 ツノトビトカゲはスラーッとした体型で、背面は鮮やかな緑色から緑褐色をしています。目の上に0.6ミリを超えるツノ状のウロコがあります。咽喉垂は小さなウロコで覆われており白色、先端が黄橙色で、ヨットの帆のような三角形をしています。良く晴れた日中、明るい森林で活発に滑空する姿が目撃されます。食べ物は小さなクロアリがほとんどです。ボルネオの他、スマトラ、ジャワ、バングナン諸島、スルー諸島に分布し、平地から丘陵地帯にかけて棲息しています。

 もっとも数が多く、普通に見ることができるのがイツスジトビトカゲ(イツツオビトビトカゲともいう)です。オスは鮮やかな緑色、メスはオリーブがかった褐色です。眼上のツノ状のウロコはなく、皮膜を構成する肋骨は6本です。翼を広げると分かりますが、幅広い5本の帯模様が本種の特徴です。タイ南部からマレー半島、スマトラ、ボルネオに分布しています。

和名     ツノトビトカゲ
学名     Draco cornutus
英名     Horned Flying Lizard

和名     イツスジトビトカゲ
学名     Draco quinquefasciatus
英名     Five-banded Flying Lizard

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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