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Vol.60 マングローブヘビ

2015.5.25

 セリロン島はブルネイ国の飛び地、テンブロン区に属する無人島です。首都バンダルスリブガワンからスピードボートで1時間の距離にあります。面積27平方キロメートル、ほぼ全島がマングローブです。昔は海賊の隠れ家や密貿易の中継地であったりしました。マングローブを伐って炭を作ったこともありますが、現在は国のレクリエーション林として、一部に桟橋様の観察路が整備されています。

 私は1995年9月から2年間、JICA専門家としてブルネイ森林局に勤務していました。セリロン島も森林局の管轄ですが、「一度も調査されていない」と聞いたため、レンジャー3名と共に動物の調査に入りました。陸地がなく、テントは幅2メートルに満たない木道の上です。行き来する時は手すりに掴まりながら、手すりの外側を歩きました。マングローブですから、陸棲の哺乳類は限られたものですが、テングザル、カニクイザル、マレーヒヨケザル、ブライズレムコウモリ、ドブネズミ、ミューラークマネズミなどを確認しました。ボルネオには、川面すれすれに飛んで採餌をするコウモリがいます。そんなコウモリを捕獲したいために、この時もカスミ網2張を水面すれすれの高さに設置しました。

日中は樹上で休息。鼻の上に蚊が止まっている。

日中は樹上で休息。鼻の上に蚊が止まっている。

 一夜明け見回りに行くと、カスミ網が大きく弛み、巨大なヘビが掛かっていました。ヘビは黒色で黄色の横帯がありました。見るからに恐ろしい毒蛇の様相です。特徴から、すぐにマングローブヘビだと分かりました。体の一部は水中で、口にはネズミをくわえています。おそらく、ヘビは、遊泳中にカスミ網に掛かったネズミを見つけ、それを捕食しようとしたのでしょう。そして、ヘビにとっては運悪く、自分も網に掛かってしまったのでしょう。さあ、それからが大変です。ネットからはずしたいのですが、近づくのも怖いし暴れるし、網に複雑に絡みついていてどうしてもはずせません。結局、水に沈めて溺死させ、ようやく解き放つことが出来ました。2メートルの大きな個体で、無駄死にさせるわけにはいかず、測定後、森林研究センターの標本室に収めました。

 ヘビの仲間は、南極大陸を除く全大陸に分布、約3000種が知られています。そのうち毒ヘビは25パーセント強を占めています。ボルネオ島では133種の陸棲ヘビが知られており、これとは別に20種のウミヘビが分布しています。

 ヘビ類を「無毒ヘビ」と「毒ヘビ」に大別することがあります。これは、形態的な特徴に基づく分類学上の分け方ではありません。しかし、毒の有無、理解しやすいことなどの理由で、ヘビを分類する際に良く使われる方法です。無毒ヘビは無牙類と総称されます。毒牙すなわち毒を注入する器官がなく、当然毒を持っていません。ナミヘビ科の大部分やメクラヘビ科の種が含まれます。これに対して有牙類は毒牙を持つヘビ、つまり毒ヘビです。毒ヘビは、毒牙の形や機能により3つに分けることが出来ます。

夜間に活動。地上にも下りることがある。

夜間に活動。地上にも下りることがある。

 まず、管牙類は上顎の前方に1対の牙があります。牙は弓形をしており、口を閉じている時は後方に倒れていますが、口を大きく開くと直角に立ち上がります。ルーペで覗くと、まるで象牙のようです。牙は注射針のように管状で、毒液は一瞬で注入されます。マムシやハブが含まれるクサリヘビ科のヘビと、コブラ科の一部のヘビがこれにあたります。

 前牙類は上顎の前方に直立したままの牙があります。牙の中央に大きな溝があり、毒は溝を伝って獲物に流れ込みます。ヒャンやイワサキワモンベニヘビなどコブラ科の大多数のヘビがこれにあたります。牙が完全な管状になっている種もあり、さらに管の出口が牙の前方に開いていて、スマトラコブラのように毒液を前方に発射出来る種類もいます。

 後牙類は上顎の後方に左右1から2本ずつの毒牙をもっています。前牙類と同じ溝状の牙で、捕らえた獲物が口の奥を通過する時に毒が注入されます。ヒトが咬まれても、口の奥まで指が行かない限り、実害は少ないと言われます。主にナミヘビ科に属する毒ヘビがこれにあたり、日本のヤマカガシもその1つです。ボルネオ島ではエダムチヘビ属2種、オオガシラヘビ属5種、ヤマカガシ属3種などがこれにあたります。

腹面は青みがかった灰色。

腹面は青みがかった灰色。

 マングローブヘビは、ナミヘビ科オオガシラヘビ属の1つで、上記の分類ですと後牙類に入ります。「咬まれてもたいしたことはない」と記述している書物もあります。しかし、体が大きく気が荒いヘビなので、村人は大変怖がります。フィリピンの大きな島々、マレー半島、ボルネオ、インドネシアのスマトラ、ジャワ、スラウェシなど東南アジアに分布、9亜種に分類されます。亜種毎に斑紋の違いがありますが、基本的には黒地に鮮明な黄色の横帯が多数入っています。ただ、スラウェシ島に分布する亜種は全身黒色です。普通に見られる個体は、2メートルを超えます。大形で最大2.5メートルにもなります。

 名前から想像できるように、マングローブの縁や、特に森林の水辺近くに棲息しています。良く見かけるのは川の中流から下流、その支流の川縁です。しかし、エンジンが止まると即ボートが流されてしまうような激流になっている上流域にも棲息しています。私が危機一髪で難を逃れたのは、そんな場所でした。ほとんど樹上で暮らし、日中は小枝が出ているような所でとぐろを巻いて眠っています。日が暮れてすっかり暗くなった頃に活動を始めますが、やはりほとんど樹上です。動き回るネズミ、眠っている小鳥やトカゲなどを捕食します。しかし、地上に降りて水辺まで来ることがあるし、先のセリロン島での経験で紹介したように、結構、水にも入っているようです。

和名     マングローブヘビ
学名     Boiga dendrophila
英名     Mangrove Snake, Yellow-ringed Cat Snake

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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