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Vol.85 ボルネオの森と動物たち その4 陸上に発達する森林(1)

2017.6.25

低地混交フタバガキ林(熱帯多雨林)

 一般に熱帯林(熱帯多雨林)といったら、ほとんどの場合、低地混交フタバガキ林のことです。森の高さが50~60メートルにもなり、世界の熱帯多雨林の中でいちばん背の高い森林です。フタバガキ科の樹種が優占し、他の樹木が混じる森林という意味です。フタバガキの分布の上限は標高1、200メートル。したがって、このタイプの森林の分布も標高0~1、200メートルということになります。フタバガキの名は、その種子に由来します。種子(堅果)に翼があり、漢字で表すと「双葉柿」です。バドミントンのシャトル(球)あるいは「はねつき」の羽根をイメージしてみてください。実際には翼の数が5枚、3枚、2枚、翼無しなどグループによる違いがあり、分類の基準にもなっていますが、2枚が特別に大きかったり、2枚だけのタイプが多いのです。

 フタバガキ科の樹種はマダガスカル島からインド洋に沿ってインド、インドシナ、スンダ列島からニューギニア島まで波形を描く分布をしています。その中心にあるのがボルネオ島で、ボルネオでは約280種のフタバガキが知られています。フタバガキという名前になじみがないかも知れませんが、「ラワン」といえば誰でも分かるでしょう。建築材、家具、コンクリートパネルに使われる南洋材です。日本は最初、原木をフィリピンから輸入しました。フタバガキのフィリピンでの呼び名がラワンだったわけです。輸入元がマレーシア、インドネシアへ移るにつれ、呼び名もメランティ、クルイン、カポール、アピトンなどと呼ばれることが多くなっています。

フタバガキの種子。翼の枚数はグループによって異なる。色も赤、黄、緑などがあるが、日にちが経つと一様に褐色となる。

 ボルネオ島の70パーセント近くが、低地混合フタバガキ林です。しかし、書物やテレビなどで学ぶ典型的な熱帯多雨林は、標高0~150メートルまで。どんなに条件が良い地域でも標高600メートル以下です。直径2メートルにもなるフタバガキ。巨大な板根、カリフラワー様の樹冠、幹にじかにつく花や果実(幹生果)。ほかの木に絡みつき、最後にはその木を絞め殺してしまう巨大なイチジクの仲間。これは「絞め殺し植物」と呼ばれています。メンガリスのような樹高80メートルにもなる巨大なマメ科植物。これらが、一般的な特徴です。しかし、低地混交フタバガキ林には人間にとって有用な樹木が多く、ほとんどが伐採され、現在は伐採後の二次林、原野になっているか、アブラヤシやゴムのプランテーションに変わっています。一見、緑一色の良い森林に思えても、マカランガ属(オオバギの仲間)やカランパヤン(ナガクビタマバナノキ)が目立つ場所は、大規模な伐採や火災に遭った所です。これらの樹種はパイオニア植物と呼ばれるもので、そういった環境に最初に進入するグループなのです。

 森林伐採以前に比べると、動物の数は著しく減っているはずですが、ボルネオの動物の約80パーセントは、今なお、このタイプの森林に棲息しています。

低部山地林

 山地林は低地混交フタバガキ林の上、標高1、200メートルから森林限界の3、500メートルまでの森林で、2、000メートルを境に低部山地林と高部山地林に区別されています。

 低部山地林は丈が低く、樹冠の形にもあまり変化が見られません。たまに突出した木があっても、そんなに大きなものではありません。全体的にはブナ科、フトモモ科、クスノキ科の樹種が優占。フタバガキ科の樹種はまれになり、巨大な木やモダマのようなツル植物、ガジュマルのようにほかの木に絡みつく種類もほとんどなくなります。一方、ランやシダ類など着生植物がかなり目立つようになります。また、強風や厳しい気象環境のせいで、発育不全の木も目立つのが特徴です。

ボルネオワキスジリス。低部山地林に棲む樹上性の小形リス。

 動物では低地にも棲んでいるヒゲイノシシ、スイロク、ホエジカ、マレージャコウネコ、クリイロリーフモンキーなどが登ってきたり、一時的に棲み着いたりします。しかし、動物相はがらりと変わり、山地性の種類に置き換わっています。多くがリスやネズミの仲間です。チビオジムヌラ、ヤマツパイ、ミナミホソオツパイ、ヒメフルーツコウモリ、キナバルリス、ボルネオワキスジリス、ボルネオヤマスンダリス、サラワクスンダリス、アカハラナガリス、ヤマスンダトゲネズミ、インドイタチアナグマ、クロヘミガルスなどです。

高部山地林

標高2、000メートル以上に見られる森林は、丈が極度に低く、せいぜい数メートル。樹冠の上面が扁平になっていきます。1本1本の木は細く、根が張り出し、枝がねじれ曲がったり、あちらこちらでこぶ状に膨れ上がった太い枝をしています。高部山地林は「雲霧林」と呼ばれることもあるのですが、始終、雲に覆われているため多湿になり、コケが繁殖しやすい環境になっています。そのため、ふつう林床、樹幹、枝に至るまで厚いコケに覆われています。一面サルオガセに覆われた枝もあります。樹種としてはブナ科、モクレン科、バラ科、フトモモ科、ツツジ科が顕著に見られる一方、着生植物は少ないか、まったく見られなくなります。熱帯とはいっても、高山になると木が矮小化し葉も細くなるので、一見、日本の高山帯とよく似た景観になっています。

マレーヒヨケザル。ボルネオでは広く森林に棲息するが、数は多くない。母子、オス大人(奧)の3頭が入った写真は非常に貴重。

 動物は極端に少なくなりますが、低部山地林に多いチビオジムヌラ、ヤマツパイ、ボルネオカオナガリスは森林限界辺りまで分布しています。タカネクマネズミ、ヤマオオクマネズミは高部山地林でのみ観察できる動物です。

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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