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Vol.81 家畜動物とスイギュウ

2017.2.25

 家畜とは、もとをただせば野生動物ですが、その中のある種の形質が人間の特殊な目的に合うように選択され、さらに近縁の動物とのかけ合わせによって強化された動物です。目的とは例えば食用、衣類の材料、愛玩用、使役用、実験動物などです。ボルネオ島の家畜哺乳類には、イヌ、イエネコ、ウマ、ブタ、ウシ、ヤギ、スイギュウなどがあり、ウマを除く6種類は確実に野生化しているか、野生化個体群がいる可能性があります。

 最も古い家畜はイヌだと言われています。少なくとも3万年前に現在のシリアあたりでハイイロオオカミから家畜化されたようです。ボルネオの先住民、ダヤク諸族と総称される人たちとイヌの関係は、人と家畜ではなく、同じ家族の一員と言ったほうが正しいでしょう。今は生活改善により、イヌは戸外で飼うのが普通です。しかし、カリマンタンの奥地では、今でも一つ家に同居しています。それも一頭二頭ではありません。ただ、ダヤクに飼われているイヌは従順でおとなしく、例え誤って尾を踏んでも子供が叩いたとしても、決して噛み付いたりしません。放し飼いのニワトリにいじめられて逃げ回ったりもしています。それでいて、一旦山へ入ると、イノシシやシカに果敢に立ち向かい、獲物を追い詰めて咬んで倒すのです。ダヤク諸族は長らくアニミズムでしたが、現在はほとんどがキリスト教に改宗しています。イスラム教徒はイヌを不浄な動物と考え、家で飼ったりしません。

スイギュウ。巨大なツノを持っている。

 イエネコは、エジプトでヨーロッパヤマネコとリビアヤマネコから家畜化されました。それは、今から1万年以上前であると考えられています。イスラム教徒はイエネコを神の使いと考えており、屋内で飼育し大切に扱っています。

 ブタはイノシシから、紀元前8,000年にクリミアで家畜化されましたが、一部、東アジアでも家畜化があったと考えられています。村を訪ねたとき、ブタを飼育する家があったり、ブタが大通りを歩いていたら、それはダヤク諸族の村です。ほとんどが換金用で、「商品であるブタ」を自分たちで食べることはありません。彼らは普段、山で捕らえたイノシシを食べています。イスラム教徒にとってブタは不浄な生き物です。したがって、肉は食べないし飼育もしません。イスラム教徒はニワトリ、ウシ、それにヤギを良く食べます。

 ヤギは紀元前8,000年頃、中近東で家畜化されました。ボルネオではイスラム教徒が放し飼いをし、夜だけ囲いに入れています。早朝、村を出発したヤギの一群は、リーダーの後ろを追って道路沿いに草をはみながら、かなりの遠出をします。大きな群れとなると、しばしば車の往来を遮断してしまうこともありますが、夕方になると村まで戻ってきます。

マハカム川中流域では湖上に放牧場がある。

 ウシは、紀元前約6,500年にはギリシアで、また、紀元前約5,800年にはアナトリアで家畜牛の記録があります。タウリンウシと呼ばれる野生種が起源のようです。インドネシアではバンテン(野生牛の一種)からの家畜化も確認されています。ボルネオでは、ヤギと同様に食事と休憩を繰り返しながら、一列となって道路沿いを歩きます。夜になると、道路中央で寝ることも多いので、地方の道では走行の際、十分な注意が必要です。アスファルト道路には日中のぬくもりが残っていて、ウシにとって心地よい休憩所なのでしょう。

 スイギュウは、約5,000年前からインドで家畜化され、現在、東南アジアを中心にきわめて広い地域で飼われています。また、インド、アッサム、インドシナ南部、タイには、野生のスイギュウも分布しています。

 スイギュウは頭胴長2.5~3メートル、尾長1メートル、肩高1.5~1.8メートル、体重500~800キログラムの大きながっしりした体格の動物です。広がった大きなひづめを持ち、オス、メスともにツノがあります。ツノは特に根もとが重厚で、後方内側にカーブしています。体は灰色や黒色ですが、普段、体中に泥をぬりたくっているから、灰褐色か赤茶色の泥の色をしています。泥はヒルやダニ、アブなどから皮膚を守るためのものです。

 ボルネオ島のスイギュウはすべて家畜で、農耕用または肉用として全島的に飼育されています。ボルネオではウシよりスイギュウを飼育するほうが一般的です。スイギュウの方がウシに比べて病気に強く、高温多雨の気候風土に合っているからなのでしょう。

今なおイヌと同居する奥地のダヤク諸族。

 北カリマンタンのクラヤン高原では、古くから産業としてスイギュウを飼育しています。国境を越えて、ブルネイやマレーシアへ売っているのです。また、この一帯に住むルンダヤ族(ダヤク諸族の一部族)は、結婚に際し結納品として男側から花嫁の家へスイギュウを渡します。嫁は返礼として、それ相当の家具を持参するしきたりです。数が多ければそれだけ盛大な結婚式になるわけです。

 東カリマンタンから南カリマンタンに分布するトゥンジュン族やブヌア族は、年末から新年にかけての一年で最大の儀式の際、何頭ものスイギュウを処理して宴会を催します。また、サバ州のカダザン・ドゥスン族は葬式の際、会葬者にスイギュウ鍋を振る舞います。さらに、生肉を弁当箱大に切ってバナナの葉で包み、これを香典返しとしています。この伝統的な葬儀に備えて、各農家とも、必ずスイギュウを飼っていました。

 ブルネイやサバのクダイ(大衆食堂)で出している「牛肉」は、多くがスイギュウの肉です。「何の肉」と聞くと、必ず「サピ(牛)」と答えが返ってきます。ところが、「クラバウ(水牛)か」と尋ねなおすと、たいてい「そうだ」と返事がきます。しかし、スイギュウ肉をウシ肉といってごまかしているようでもありません。確かにウシのほうが値段も良いのですが、常食している肉に、区別するほどの違いも必要もないということなのでしょう。このように、ボルネオ先住民にとって、スイギュウは最も身近にある家畜動物なのです。

和名     スイギュウ
学名     Bubalus bubalis
英名     Water Buffalo

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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