日本全国の動物園と水族館をつなぐ情報誌、「どうぶつのくに」「どうぶつえんとすいぞくかん」公式Webサイト

どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.50 サソリ 

2014.7.26

 私が初めてサソリを見たのは1965年、20歳の時訪ねた石垣島でした。夕食後、宿の部屋でくつろいでいると、畳の上を何かが小走りに動いています。近づいて見ると、何とサソリではありませんか。外から侵入したものと思われます。明るい褐色地に、やや濃いめの褐色斑が全体にありました。小さいながらすぐにサソリと分かる体型で、「これがそうか」と感激したものです。後日、図鑑で調べるとマダラサソリでした。体長60から80ミリ。長い尾と、毒針に対向する1本の棘があります。東南アジア、ポリネシア、オセアニア、中南米、アフリカなど世界の亜熱帯、熱帯域に広く分布し、日本では石垣島、西表島など八重山諸島に棲息します。また、人為分布でしょうが、小笠原諸島にも分布します。私はその後、八重山でしばらく生活しましたが、マダラサソリは森林内よりも開けた所を好み、人家周辺で良く見つかりました。特に薪とか建築資材を庭先に積んでおくと、そんな所に棲むようになります。また、夜、家屋内に入って来ることもしばしばありました。

 サソリを見たことを機に、私は蛛形類(ちゅけいるい・広義のクモ類)に若干の関心を持ちました。大学を卒業し、石垣島で中学教員に就く際には、蛛形類に関する本を持参しました。世界の蛛形類は11目(Order)に分類されています。当時、日本ではクモ、ダニ、ザトウムシ、サソリ、サソリモドキ、ヤイトムシ、カニムシの7目が確認されていました。

チャグロサソリ。腕を伸ばすと20センチを超える。

 コヨリムシという、サソリモドキを微小にしたような蛛形類があります。全長2ミリ、浅い土壌に棲み、微小昆虫の卵や幼虫を捕食しています。世界で約40種類が知られ、マダガスカル、地中海沿岸などから多く記録されています。日本からは当時発見されておらず、近い所でもタイで2頭、オーストラリアで2頭の記録があるのみです。しかし、既知の発見地を地図に書き込んでみると、世界の亜熱帯・熱帯に広く分布しているのです。私は、「八重山諸島ならいるはずだ」と直感し、毎月1回、8リットルの森の土壌を採集しました。そして、装置で生き物だけを抽出し、1匹ずつ顕微鏡で調べます。実際にやってみると、これは大変な作業です。対象とする中形土壌動物だけでも、ダニ、トビムシを中心に何千個体もあるのです。

 それでも10ヶ月目、とうとうコヨリムシ1頭を見つけ出しました。本の図が脳裏に焼き付いていましたから、瞬間にコヨリムシと分かりました。これに関しては、その年(1971年)の動物学会に共著で発表、日本の蛛形類に新たな1目が加わりました。

マダラサソリ。細長い腕と長い尾が特徴。

 教員を1年で退職後、私は大学院に進みました。そこではイリオモテヤマネコの研究に専念しました。西表島でたまたま捕らえたヤエヤマサソリを、2年ほど研究室で飼育したことがあります。ヤエヤマサソリは主に森林に棲息し、特に朽ちた木の中や、リュウキュウマツの樹皮下で見つかります。1ヶ所で何個体も見つかるのが普通です。人家周辺にも少しはいるのですが、家に侵入することはありません。体長30~35ミリほど。暗褐色で、体は幅広く、やや平らになっています。尾が短く、上からですと逆三角形に見えます。先端の毒針は下に曲がり、毒針に向き合う棘はありません。東南アジアからオーストラリア北部、ポリネシアに分布。もちろん、ボルネオ島でも普通に見られるサソリです。

 飼育は、小さなケースの中で乾燥しすぎないように注意しました。ほとんど世話をしなかったのですが、たまにチャバネゴキブリを餌として与えていました。面白いことに、1匹だけなのに年2回ほど幼生を産みました。幼生は真っ白で、生まれた直後に母親の背中に登り、そこで生活します。まるで「航空母艦のよう」です。1週間もすると幼生は背から下りて自活するようになりますが、一緒にしておくと、母親が1匹食べ、また1匹食べ、気づいた時には幼生が1匹も残っていませんでした。こんなことが数年続きました。私が飼育したのは1970年代後半でしたが、1980年代半ばになって、日本の研究者により、ヤエヤマサソリは単為生殖によって雌だけで繁殖が可能であることが明らかにされました。少なくとも一部の個体群ではオスが存在せず、単為生殖だけで繁殖するというのです。

ヤエヤマサソリ。太い腕。白色の1齢幼生は母親の背中に。

 ボルネオ島で最もよく見られるサソリが、チャグロサソリです。体長20センチにもなる大型種で、全体に幅が狭く、スマートな体型ですが、黒光りしたいかにも怖そうな姿をしています。湿潤な森に棲み、日中は倒木の下や朽ちて出来た洞に潜んでいます。大きな倒木には必ず1匹はいると言ってよいでしょう。夜、現場へ行くと、洞の入口あたりに出ていますが、ライトを当てると奥へ逃げ込んでしまいます。山小屋や山中の人家では、餌となる虫を求めて、灯りにやって来ます。そんな時でも、陰になっている場所で静止し、チャンスの到来を待っています。そして、大きなガやバッタが来ると、驚くほどの速さで獲物に突進します。壁の登り下りも自由自在です。

 私は、サソリに刺されたことはありません。毒は致命傷になるほどの強いものではないようです。しかし、大型ムカデに咬まれて痛い思いをした私は、キャンプでは靴を履く際に、必ず中を点検します。森では、サソリやムカデが靴に入り込むことが良くあるのです。

 毒の程度を知っているのか、カリマンタンで一緒だった作業員のジャマルディン君は、サソリを見つけると、大きめの葉を1枚取って、尾を挟み込むようにして捕らえてくれました。もっとも彼は、タランチュラも同じようにして捕らえたし、歯の鋭いスローロリスでさえ、素手で鷲づかみするような人間ですから、あまり参考にはならないでしょうか。

和名 チャグロサソリ  学名 Heterometrus sp.      英名 Asian Forest Scorpion
和名 マダラサソリ   学名 Isometrus maculates     英名 Lesser Brown Scorpion
和名 ヤエヤマサソリ  学名 Liocheles australasiae    英名 Dwarf Wood Scorpion

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

カテゴリー

カテゴリー一覧

このカテゴリーの他の記事

ページTOPへ

Copyrights © 2010 Doubutu-no-kuni All Rights Reserved.
誌面、Webにおけるあらゆるコンテンツの無断複写・転載を禁じます。