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Vol.47 オオカブトの仲間

2014.4.26

 ボルネオ島には3本の長い角を持つカブトムシが棲息しています。モーレンカンプオオカブト、コーカサスオオカブト、アトラスオオカブトの3種類です。

 2002年以来、私はクロッカー山脈の国立公園内にある宿舎で、合計1年1ヶ月間暮らしました。周囲は1度伐採された森林で、沢筋に僅かながら原生林が残っています。標高1,000メートル、足下にケニンガウの町を遠望出来る高台に位置していました。

 朝起きて扉を開けると、ベランダには足の踏み場もないほど虫がいました。夜の間に灯りに集まり、そのまま留まっているのです。そんな虫を1つ1つ調べて、ちょっと変わったものは写真に収めることも、私の楽しみの1つでした。多くは大小さまざまな蛾ですが、オオカブトが、多いときには20匹もいました。

モーレンカンプオオカブト。赤みを帯びる。角の長短は栄養などの影響。

 キナバル山のラヤンラヤンやメシラウに泊まる時も、灯りに集まる虫を楽しみにして待ちました。しかし、ここでは虫はほとんど来ません。日中でも雨が降ったりすると摂氏13度まで下がるような高所です。虫にとって夜活動するには寒すぎるのでしょう。

 虫が灯りに集まる習性を利用した採集方法があります。ライト・トラップ(灯火採集)と言います。夜間、野外で白いスクリーンを張り電灯をともし、飛来する昆虫を採集するのです。これをボルネオの森でやると、ウンカ、ハチ、カゲロウの仲間などですが、透明の翅をもった微小なものがやたらと集まって来ます。少し大きなものではカメムシの仲間、カマキリ、ヤミスズメバチ、セミ、翅をもったシロアリ、メイガのたぐい。大きなものはスズメガ、ツバメガ、カブトムシ、カミキリ、クワガタ、セミなどです。ライト・トラップは、それほどの苦労もせず、成果が大きい方法です。もっとも、灯りに集まる虫の種類や数は、時期によって違いがあります。私の経験では例年、3月と7月頃が1番多いように感じます。また、近くに家などの灯りがない場所では、1日目より2日目、3日目のほうがたくさん集まる傾向があります。昆虫には、灯りに反応してすぐ光源に向かう種類と、毎晩、一定時間の刺激を受けた後初めて行動する種類があるように感じます。

 3種類のオオカブトは、形態的な違いはあるものの、生態的にはお互い良く似ています。夜行性で、森林にある何種類かの樹木に集まります。日本のクヌギやクリを想像してみてください。それらの木からは、甲虫や蛾が好む樹液がにじみ出るのです。残念ながら私はその木を知らないし、そのような木でカブトムシを採集したこともありません。ただ、オオカブトは灯火によく集まるので、私は専らこの方法で採集しました。山間のロッジや小屋に滞在する時、灯りの点いた部屋の外壁をチェックしたり、庭灯の下を探すのです。

コーカサスオオカブト。胸角が湾曲する。

 メスは森林内の腐った倒木やその下の土に産卵します。カリマンタンで生活していた時、私はそのような場所で、親指よりさらに大きな終齢幼虫を見つけたことがあります。幼虫は朽ち木や土化した木を食べて成長し、成虫になるまで約2年を要すると言われています。

 モーレンカンプオオカブトは、ボルネオ島固有種です。大きなものは体長10センチを超えます。翅はつやつやに黒く光っていますが、多少赤みを帯びます。長い角が3本あり、中央の1本(頭角)は上側に湾曲し、基部の上側に小突起があります。両側の2本(胸角)はそれと向かい合うように下側を向いています。胸角は、次に述べる2種類に比べて重厚で、ほぼ平行に伸びています。この点が大きな特徴です。低地林から標高1,000メートルくらいまでのところに分布します。サバ州で見かけるオオカブトは圧倒的に本種が多いように感じました。1度、標高1,600メートルで捕らえたことがありますが、その高さになると、カブトムシでは小型で赤茶色をした別種、ヒメカブトがほとんどです。

 コーカサスオオカブトは最大13センチを超えるアジア最大のカブトムシです。インドシナ半島からマレーシア、スマトラ島、ボルネオ島、ジャワ島に分布、亜高山帯から高山帯の森林に棲息します。黒褐色の体で、光の当たり具合で緑の光沢が現れます。赤みを帯びることはありません。2本ある胸角は、先端に向かってゆるやかに細くなり、きれいに湾曲します。モーレンカンプオオカブトと同様、頭角の基部上側に小突起があります。

メスは日本のカブトムシに似るが、胸部上面がザラザラ。

 ところで、名前に「コーカサス」とありますが、このカブトムシがコーカサス地方に分布している訳ではありません。「caucasus」は、「白い雪」を意味する「クロウカシス」に由来するギリシア語です。上翅にある光沢から名付けられたものです。

 名付けについての話をしましょう。コーカサスオオカブトは、1801年に新種記載され、Chalcosoma caucasusと命名されました。ところが、最近の研究で1789年記載のChalcosoma chiron と同種と判断されました。そこで、国際動物命名条約により、先に記載されたChalcosoma chironに統合されたわけです。そのため、和名も「キロンオオカブト」にしたらどうかという案も出ています。なにかと話題性に富むカブトムシですね。

 アトラスオオカブトはインドからスラウェシ島まで広範囲に分布、主に低地の森林に棲息しています。コーカサスオオカブトに酷似しますが、やや小型で胸角が細く、頭角基部の突起がありません。ただし頭角の先端がやや膨らみ、槍状になっています。さらに、体長に占める角の長さがコーカサスオオカブトより大きく、魅力ある形になっています。

 3種類のオオカブトに共通することですが、長い脚の先に大きく鋭い爪があります。掴み方を間違えると爪が皮膚に食い込んでしまい、痛い思いをする羽目になります。そして、これら3種類のオオカブトがたいへん魅力的な昆虫であることも、大きな共通点です。

和名   モーレンカンプオオカブト      コーカサスオオカブト    アトラスオオカブト
      (ボルネオオオカブト)        (キロンオオカブト)
学名  Chalcosoma moellenkampi     Chalcosoma chiron      Chalcosoma atlas
英名   Moellenkamp Beetle         Caucasus Beetle       Atlas Beetle

総称してThree-horned Beetlesとも言う

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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