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Vol.84 ボルネオの森と動物たち その3 大陸との共通性と違い

2017.5.25

 動物植物を問わずさまざまな生物の分布を見てみると、海峡とか高い山脈を境に生物相ががらりと変わる場合があることに気づくでしょう。この生物相が入れ替わる線を「分布境界線」といいます。そして、分布境界線は主に3つの条件から出来ると考えられています。

 まず、生理的条件。それぞれの生物には、生存可能な生理的条件の幅があります。例えば耐寒能力。一定の気温以下になる地域では生存出来ないから、分布を広げることの出来る緯度や標高に限界が生ずるわけです。

 次に、生物的条件。餌となる植物や動物がない場合。あるいは、生活様式や食べ物がまったく同じの生き物がいて共存が出来ない場合など。生理的には生存可能であっても、分布の拡大に限界が生じてしまうのです。

表 ボルネオと大陸の違い

 もう一つは、地史的条件。例えば陸上に棲む動物は、陸続きでなければ移動出来ません。海があれば分布を広げることが出来ないし、過去に一度でも水没する時があった島では、そこの陸上動物は絶滅しているわけです。3つの条件のうち、一番大きな要因と考えられるのが、地史的条件です。つまり、それぞれの生き物の祖先が、いつ、どこで生まれ、その後どのような地史的変化を受けてきたのかということが、現在の生物分布を決めているのです。

 世界は生物相の共通性と違いから、旧北区、新北区、新熱帯区、エチオピア区、オーストラリア区、東洋区(アジアの熱帯域)の大きく6つに区分されます。旧北区は旧世界の北半分を占めています。新北区は北アメリカ全域。新熱帯区は中央および南アメリカ全域。エチオピア区はアトラス山脈以南のアフリカ大陸およびアラビア半島、オーストラリア区はオーストラリア、ニューギニアなどを含む地域、東洋区はアジア大陸のインド、インドシナ、中国南部、スマトラ、ボルネオ、ジャワといった大きな島のあるマレー群島を含む地域です。

 ボルネオ島は生物地理学でいう「東洋区」に含まれます。東洋区はヒマラヤ山脈を挟んで旧北区と陸続きですが、他の区とは太平洋とインド洋によって隔てられています。

 ボルネオは、かつてはアジア大陸の南東に突き出た半島の一部でした。ですから、陸続きの旧北区や、同じ旧世界の熱帯であるエチオピア区の動物相と深いつながりを持っています。ツパイ目は今でこそ東洋区固有の動物群ですが、祖先型の化石は旧北区で見つかっています。ツパイは南へ分布を広げたが、第三紀の終わり頃、ヒマラヤ山脈の成立により分布域が二分されてしまった。そして、その後、北の地域では何らかの原因で絶滅したのだと推測されます。一方、ツパイはボルネオが大陸から離れた後、島内で大きな種分化をとげた動物です。ボルネオには9種のツパイが分布し、うち6種が固有種です。

クロザル。スラウェシ島北西端にのみ分布する固有種。

 ボルネオは、大陸から離れた後、島という孤立した環境の中で多くの固有種を誕生させました。しかし、基本的な哺乳動物相は、同じ東洋区で隣接したマレー半島と類似しています。

 ボルネオ島には226種が棲息し、マレー半島には220種が棲息しています。固有種はボルネオでは51種ですが、マレー半島では13種のみです。両地域に共通する種は147種。そのうち134種は東南アジアに共通。なかにはヨーロッパからアジア大陸、東南アジアを経てオーストラリアにまで広く分布するものもあります。残り13種類は両地域だけの固有種です。

 マレー半島とインドシナまたはスマトラとの共通種は60種におよびますが、ボルネオとインドシナとの共通種は、スマトラまたはジャワとの共通種を含めても17種に過ぎません。一方、マレー半島とフィリピンまたはスラウェシとの共通種はないが、ボルネオとフィリピンまたはスラウェシとの共通種は5種あります。

バビルサ。スラウェシ固有のイノシシ。マレー語でバビ(イノシシ)ルサ(シカ)の意味(スラバヤ動物園にて撮影)。

 さて、東洋区とオーストラリア区の境界線は動物相の相違を元に、スンダ列島のバリ島とロンボク島の間を通り、ボルネオ島、スラウェシ島の間を経て、ミンダナオ島の南へ引かれています。この境界線は発見者の名にちなんで「ウォレス線」と呼ばれています。一方、淡水魚の研究をもとに引かれた両区の境界線は、チモール島の東からセラム、モルッカの西を通り太平洋へ抜けており、研究者の名にちなんで「ウェーバー線」と呼ばれています。同じ場所なのにどうして違いが出るのかというと、同じ地史の下であっても、動物群により影響を受けた時期が異なったり、影響の度合いが動物群によって違ったりするからです。そこで、強いて一本の線に統一することはせず、「ウォレシア」という地域としてとらえているのが今の考え方です。ウォレス線より西は完全な東南アジア系の要素。ウェーバー線より東は完全にオーストラリア系の要素から成っています。ウォレシア内は、全体的にはオーストラリア系の要素が強いのですが、東南アジア系要素も数多く確認できます。ウォレシアの中心的な島がスラウェシ島です。ベアークスクス、ドワークスクスといった有袋類が分布する一方、9種のメガネザル、6種のマカク属のサル、アノア(野生の小形スイギュウ)、バビルサのように固有の真獣類も分布しています。これは、スラウェシ島がもともとはオーストラリア側とアジア側の2つの島であり、それらが接触して一つになったことが、大きな理由ではないかと考えられています。

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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