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Vol.57 アミメニシキヘビ 

2015.2.25

 ニシキヘビ科のヘビはアフリカ大陸、オーストラリア、ユーラシア大陸南部、インドネシア、フィリピンなどに広く分布しています。しかし、ユーラシア大陸とアフリカに分布するのは、私たちが良く知るニシキヘビ属のヘビのみで、他の属・種はすべてオーストラリアやニューギニアに分布しています。

 最大の種類がアミメニシキヘビです。最大、全長10メートルに達します。これは南米のオオアナゴンダと並び、ヘビに限らずワニを含めた現生の爬虫類の中で最長の動物です。

 アミメニシキヘビはインドからカンボジア、ベトナム、タイなどのインドシナ半島、マレーシア、インドネシア、フィリピンなどに分布。もちろん、ボルネオにも分布し、ボルネオでは決して珍しくないヘビの1種です。分布が広いため体色や全長は地域によって異なりますが、細長い頭で眼は小さく瞳は縦長、太くて長い胴体と短い尾が共通した特徴です。背面に網目状の斑紋が並び、これが名前の由来になっています。ちなみに、胴体は首の下から肛門まで。尾とは肛門から先端までのことです。

日中、樹上の茂みに隠れて眠る。

日中、樹上の茂みに隠れて眠る。

 森林や耕作地など幅広い環境に棲息しますが、幼蛇の時は生活の多くを、葉が茂る樹上でおくります。地上だとカンムリワシをはじめ、中大型のワシ類に襲われる危険が高いからなのでしょう。成長に伴い地上中心の生活となります。夜行性で昼間は茂みや樹洞などで眠ります。私の経験からですと、3メートルに成長した個体でも、日中は樹上で眠っています。比較的細い枝の、さらに細い枝が何本も分かれる部分に、丸くなって載っている形になっています。かなり真剣に探してもなかなか見つかりませんし、頭が下から見えることはほとんどありません。さらに、枝をゆさゆさとゆすっても落ちることはありません。

 樹上で眠っていた個体も、夜になると地上に降りて獲物を待ち伏せします。移動は体を左右にくねらせながら、ゆっくり進みます。この時に大雑把でも体長を目測出来るのです。食べ物は哺乳類、鳥類、爬虫類などで、川沿いではマメジカやヤマネコがよく襲われています。巨大なニシキヘビともなると、水を飲みに来たイノシシやスイロク(シカ)を襲っています。殺しの際は、獲物に口と牙で噛みつき、素早く長い身体で巻き付き、ゆっくり締め上げて窒息させます。繁殖形態は卵生で、産卵数は30-100個程度。母親が卵塊の周りにとぐろを巻いて抱卵して保護し、50から80日程で孵化します。

体をくねらせながら、ゆっくり前進する。右端が頭部。

体をくねらせながら、ゆっくり前進する。右端が頭部。

 ボルネオ島インドネシア領、東カリマンタン州のムラワルマン大学研究林に住んでいた時の話です。人夫頭のソフィアン氏が「大きなやつだ」と言って持ち出してきたものがあります。それは、ぐるぐる巻きにしたニシキヘビの皮でした。とにかく大きいのです。幅だけでも50センチありました。そこで、3名の人夫に庭に広げさせて長さを測ってみました。すると、なんと8メートルもありました。それでも尾の部分は切れて無くなっているのです。もっとも、なめした皮ですから実際より多少は伸びているかも知れません。「どうしたんだ」と尋ねると、「しばらく前に息子が仕留めた」と言う返事です。彼の息子はまだ小学生。私はにわかには信じることが出来ませんでした。何でも、息子がいつものように沢へ水浴びに行った。すると、腹がふくらんで動けなくなった大蛇がいた。息子は走って帰宅し、親がいないのを幸いに空気銃を持ち出した。現場へ戻ってから、ヘビの頭めがけて、幾度も幾度も弾を撃ち込んだそうです。事件を知ったソフィアンが現場へ行き解体したら、腹にはイノシシが入っていたそうです。これが大きなイノシシで、そのため、巨大ニシキヘビといえども、しばらくは動くことが出来なかったのです。しかし、まかり間違っていたら、息子がやられていたはずです。安堵の気持ちがそうさせたのか、ソフィアンは「2度と危険なことはするな」と、さんざん息子を叱ったとのことでした。

 沖縄のサンシン(三線)をご存知ですね。日本の三味線に比べて棹が短く、ネコではなくヘビの皮が張られています。そのため「蛇皮線」とも呼ばれています。沖縄の楽器ですから、胴に張る皮としてハブが使われると思っている人も多いようです。でも、それは間違いです。サンシンは昔からニシキヘビの皮を使っていました。ハブでは最大級の個体でも、サンシンの胴に張るのには幅が足りないのです。サンシンは15世紀頃、当時の中国・唐から伝わった「三弦」が元で、ニシキヘビの皮はベトナムやミャンマー、タイなどインドシナ半島あたりから集められたものなのでしょう。さらに、サンシンは琉球から日本に伝わる過程で、入手困難なヘビからネコの皮に替わり、三味線になったと言われています。 

捕獲した個体。興奮すると恐ろしい。

捕獲した個体。興奮すると恐ろしい。

 ニシキヘビは食用にされることもあり、味は鶏肉のようだと聞いています。イスラム教徒にとってヘビ肉はタブーとされているのですが、サバ州のコタキナバルにはニシキヘビを扱う料理店がありますし、ブルネイでさえ、私が生活した1995年当時、ニシキヘビ、ワニ、オオトカゲの肉を専門に売る店がありました。

 ボルネオにはもう1種、ボルネオアカニシキヘビが分布します。最大長3メートルですが、普通、2メートルを超える個体はいません。尾が全長の10パーセントと短いことも特徴の1つです。長らく、東南アジアに広く分布するスマトラアカニシキヘビと同種と考えられてきましたが、現在はボルネオ固有種に位置づけられています。ボルネオでは標高1000メートル以下の、主に川や湖沼などの水辺近くの森に棲息します。ただ、アミメニシキヘビに比べて数が少ないようで、実の所、私はまだ会った事がないのです。

 

和名      アミメニシキヘビ
学名      Python reticulatus
英名      Reticulated Python

和名      ボルネオアカニシキヘビ
学名      Python breitensteini
英名      Bornean Short Python

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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