日本全国の動物園と水族館をつなぐ情報誌、「どうぶつのくに」「どうぶつえんとすいぞくかん」公式Webサイト

どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.94 ボルネオ島の昆虫類

2018.3.25

灯火に集まる虫がたくさんいる

 2002年、私はクロッカー山脈の公園本部にある職員宿舎で7ヶ月間くらしました。周囲は1度伐採された森がほとんどですが、沢筋には僅かながら原生林が残っていました。標高1,000メートル、遙か遠くにケニンガウの町を見下ろせる高台に位置していました。

 朝起きて扉を開けると、ベランダには足の踏み場もないほどの虫がいました。夜の明かりに集まり、そのまま留まっているのです。夥しい数ですが、1匹1匹の種が異なり、同じ種類の虫を見つけるのが大変なほど多種多様でした。そんな虫を1つ1つ調べて、珍しいものや、ちょっと変わったものを写真に納めることが、当時の楽しみの1つでした。

 この、灯火に虫が集まる習性を利用した調査方法があります。ライト・トラップと言って、夜間、森の縁などに白いスクリーンを張り、電灯をともし、飛来する昆虫を採集する方法です。ボルネオの森でやると、ハエ、ハチ、カゲロウの仲間など、透明の翅をもった微小なものがやたらと集まってきます。ウンカ、キクイムシの仲間もやって来ます。少し大きなものではカメムシの仲間、カマキリ、ヤミスズメバチ、セミ、翅をもったシロアリ、メイガの類い。大きなものはスズメガ、ツバメガ、カブトムシ、カミキリ、クワガタ、大形のセミなどです。特にカマキリは、10センチもある大形のものから2センチに満たない小さなものまであり、形もハチにそっくりなものや、枯葉に似たものなど実に様々で興味深いことでした。

 ボルネオの昆虫は、こういった種類の豊富さに加え、モーレンカンプオオカブト(第47回)、クロテイオウゼミ(第58回)、ヨナグニサン(第61回)、トリバネアゲハ(第63回)、オオコノハギスなど、日本では想像できないような大きな種類がいます。しかし、その逆の小さな種類も多いのです。2センチに満たないセミがいたり、両翼を広げても4センチほどのスソビキアゲハというアゲハチョウもいます。実際は大小さまざまな生き物がおり、これが、熱帯雨林の魅力「種の多様性」です。

 オオコノハギスはツユムシやクツワムシと似ていますが、特別に体が大きく、厚みのある体つきです。「ピョウ、ピョウ」と大きなかん高い音を出すので、声を聞いただけでは、これが虫だと言っても、誰も信じてくれないでしょう。私もしばらくはクイナが鳴いているのだと思いました。ところが、声が移動しないので、ある夜、写真に撮ろうと薮の中を這いずりまわり、やっと掴み捕ったのがこの虫だったのです。

 コノハギスの仲間は、密生した葉の茂みで生活しています。後足が特に長いわけではなく、這うようにして移動します。危険を察知した時も、キリギリスのように跳びはねることが出来ず、ピタッと静止して難を逃れようとします。大小様々で、多くの種類は灯火に飛来します。

 ライト・トラップでは、それほどの苦労もせず、大きな成果が期待出来ます。もっとも、明かりに飛来する虫の種類や数は時期によって異なり、ほとんど来ない夜もあります。例年、3月と7月頃が1番多かったと記憶しています。また、初日より、2晩目、3晩目のほうがたくさん集まる傾向がありました。記憶が蓄積し、あるレベルに達することで、明かりに向かうというスイッチが入るのだと思います。

オオコノハギスの一種

巨大なホタルの幼虫

 時々、キナバル公園を旅行した人から尋ねられることがあります。「遊歩道を歩いていたら、変わった生き物がいた」。虫に知識がある人からは、「ホタルの幼虫みたいだけれど、大きすぎる」と言うのです。

 おそらく、ホタルの幼虫でしょう。ホタルと言っても、正確にはベニボタル科のサンヨウベニボタルのメスです。長さ5センチ、平べったく、全体が黒色でそれぞれの体節がだいだい色で縁取られています。この三葉虫を思わせる特異な外形から、「サンヨウ」という名前がつけられています。メスは一生、翅を持つことなく、幼虫と同じ形のままで暮らします。オスは翅を持ち、ホタルに似た成虫になるのですが、メスに比べて10分の1程度の大きさです。ベニボタル科はホタル科に近縁な甲虫ですが、ホタルのような発光はしません。

 ホタル科は世界に約2,000種います。「ホタルは幼虫時代を水中で過ごし、カワニナなどの巻貝を食べる」と、勉強しましたね。ところが、そのような生活をするゲンジボタルやヘイケボタルなどは、世界で10種類ほどしか知られていません。他は落ち葉が積もった陸上で生活し、カタツムリやナメクジ、種類によってはヤスデなどを捕食しています。ボルネオからは、幼虫時代を水中で過ごすホタルは見つかっていません。

バイオリンムシ

産卵と同時に孵化するゴキブリとハエ  森林に棲むゴキブリにもたくさんの種類があります。メスはがまぐち(財布)のような形をした白い卵嚢をお腹につけています。卵嚢とは中に幾つもの卵が入った袋のことです。日本のゴキブリは、この卵嚢を朽木や樹皮に産み付けます。そして何日かすると中の卵が孵化し、卵嚢を破って幼生が出てきます。ところがボルネオでは、卵嚢がまだ母体に付いている状態で卵が成熟し、母体から離れると同時に幼生が出てくるのです。ハエにも卵を産み付けた瞬間、ウジ虫になる種類が多いのです。初めて見たときは、ゾッとして鳥肌がたちました。こういったことは、少しでも早く自力で動くことで、捕食者から逃れるという遺伝的な戦略なのでしょう。熱帯雨林では、生活様式にも多様性がみられるのです。

ヤママユガの一種

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

カテゴリー

カテゴリー一覧

このカテゴリーの他の記事

ページTOPへ

Copyrights © 2010 Doubutu-no-kuni All Rights Reserved.
誌面、Webにおけるあらゆるコンテンツの無断複写・転載を禁じます。