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Vol.51 ハチマキカグラコウモリ

2014.8.25

 コウモリ探知機(バットディティクター)は、超音波を可聴音に変える装置です。様々な型がありますが、携帯電話をやや大きくした感じの器材です。経験を積むと、何という種類のコウモリが、何をしているのか知ることが出来るようになります。種類により音のパターンが違ったり、同じ種類でも普通に飛んでいる時と、獲物の昆虫に照準を合わせる時とでは、発する音波が異なるからです。

 探知機を使い始めて間もない頃、ブルネイの森でのことです。林の奥でコウモリに似た音をとらえました。「おそらくコウモリだ」と予想したのですが、音は1ヶ所からで、飛んでいる様子はありません。「虫かな」とも思いました。虫の鳴く音は探知機がなくても聞こえますが、探知機を通したら、違った音になるのかも知れないと考えたのです。

 それからが大変、心もとないライトを頼りに懸命に探しました。なにせ道のない森の中、ライトを消すとまったくの闇です。

大きな鼻には毛がなく、剥き出しになっている。

 そして、いました。やはり、音の主はコウモリでした。細い枝に吊り下がり首をねじるように半回転を繰り返し、さかんに発信しているのです。探知機からはヒヒヒヒ、ヒヒヒヒ、ヒヒヒヒと聞こえてきます。そして、時々急降下しては、またフワリと枝に戻るのです。私はワシやタカの仲間が樹上で獲物を待つ姿を思い浮かべました。コウモリにもこのような待ち伏せ型がいるのです。私にとって、新鮮な驚きでした。最初に見たのはダヤクカグラコウモリでしたが、数日後、別の森で確認したのがハチマキカグラコウモリでした。その時はカメラにも収めました。2メートルまで近づくと、コウモリは落下するように枝から離れ、ヒラヒラ飛び去ってしまいましたが、その時はヒューン、ヒュン、ヒュン、ヒュンとまた違った音を発しました。そして、ずっと先の枝に止まると、再び、待ち伏せを再開しました。私は待ち伏せをするコウモリを他に知りません。しかし、カグラコウモリの仲間には、同様な習性を持つ種類がいると考えられます。

 カグラコウモリの仲間はアフリカ、南アジア,オーストラリアの熱帯、亜熱帯に約60種が分布しています。日本では八重山諸島に唯一ヤエヤマカグラコウモリが棲息しています。日本の中でも、トカラ海峡以南の琉球列島は、生物地理学上、東洋区(アジアの熱帯地域)に含まれます。

 ボルネオ島にはカグラコウモリが11種分布します。その中で、ハチマキカグラコウモリはずば抜けて大きく、前腕長76~89ミリメートル、両翼を広げると55~60センチにもなります。ところが体重は30~49グラム。鶏卵1個よりはるかに軽いのです。コウモリは唯一、空中を飛ぶ哺乳類で、そのために体が特殊化して軽くなっているのです。

洞穴の天井に大きなコロニーを作って休息する。

 和名の「カグラ」は「神楽」に由来します。顔が、「獅子舞の獅子」を連想させるのでしょう。英語では「roundleaf(丸い葉)」と表現していますが、鼻の形に特徴があり、一度覚えたら、他の種類と見間違えることはありません。また、「ハチマキ」は、英語の「diadem」を訳したもので、帯状の髪飾り、頭環の意味です。白い帯状の斑があることに由来します。背面は暗褐色で基部が淡い色をした毛で覆われ、肩と両脇に白い斑紋があります。腹面は薄い灰色です。翼は幅広で短く、森林の中をヒラヒラと飛ぶ構造になっています。

 本種はインドシナ半島南部、タイ、マレー半島、フィリピン、スマトラ、ジャワ、スラウェシからオーストラリアに至る広域に分布。ボルネオ島でも全域に分布、ほとんどの大きな洞窟で棲息が確認されています。

 日中は、洞穴の天井部分に大きな群れを作って休息します。同じ洞穴に別の種類と同居することも普通にあることです。一緒とはいっても、それぞれが別のコロニーを作り、お互いが混ざり合うことはありません。また、木の洞で休息することも確認されています。

 森林から出て、広く開けた場所を飛ぶことはありません。ふつう森林の中で活動、特に低層部を飛んで採餌することが多く、私も必要があって捕獲する時は、普通の捕虫網を使っていました。主にガなど大きな昆虫を補食します。

小枝に吊り下がって餌となる昆虫を待ち伏せする。

 サバ州デント半島にあるタビン野生生物保存区は、面積1,205平方キロメートルに及ぶ広大な保護区です。サバ野生生物局の管理事務所・職員住宅と、民間のリゾートがある場所がステーションエリア。ツアー客が身近にアジアゾウやオランウータンを観察出来るのは、この一帯です。

 保存区の最奥地にコアエリアがあります。かつては林道が通じていました。1990年代末から2000年代初頭にかけて、私は何日も一人で、ここでテント生活をしながら調査を続けたものです。至近に盗伐団がおり、怖い思いをしたこともあります。鉢合わせしたら殺されるかも知れません。彼らは組織的な犯罪集団なのです。

 2003年頃だったと記憶していますが、このコアエリアにあるバトゥプティという鍾乳洞へ入りました。すでに林道は無く、タビン川をボートでひたすら遡って辿り着きました。その時はレンジャーと共に、一週間、テントですごしました。

 洞窟で見たものは、夥しい数のコウモリでした。ヨアケオオコウモリ、クレイグキクガシラコウモリを始め、数種類のユビナガコウモリとキクガシラコウモリなど。それらが、広い天井を埋め尽くしており、なかでもハチマキカグラコウモリの大集団は圧巻でした。

和名    ハチマキカグラコウモリ
学名 Hipposideros diadema
英名    Diadem Roundleaf Bat

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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