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Vol.32 オヒキコウモリの仲間

2013.1.24

ブルネイ森林局に勤めたことがあります。JICA専門家として哺乳動物の生態調査や標本、論文などのまとめ。それらを通して研究者を育てることが仕事で、2年間滞在しました。

「木の洞にコウモリが棲んでいる」。ある日、レンジャーが言うので、さっそく案内してもらいました。宿舎から10キロ余り、そこは、ケランガスが広がる白い大地の脇にある小さな森でした。ケランガスとは、珪砂が厚く堆積する栄養分のない土地です。

コウモリが棲むという木は直径1メートルを超す大きな木でした。中が空洞になっているようです。日暮れを待ち、コウモリが高さ10メートルにある裂け目から出てくることを確認しました。さて、どうしたら捕獲できるか。登ることは出来ないし、長いはしごも捕虫網もありません。私はミストネット(かすみ網)を使うことを考えました。問題はどうやって掛けるかです。「大丈夫だよ」。レンジャーの言葉を信じ、翌日、再び出掛けました。 現場へ着くと、彼は釣り用の重りにたこ糸を結び、ゴム管(パチンコ)で空高く放ちました。重りは裂け目より高い枝を越え、落下しました。次にたこ糸にロープを結び、引き上げて枝に掛けました。同様にして、別の枝にもう1本のロープを掛けました。そして、ロープにネットを結び引き上げ、裂け目を塞ぐように固定しました。

 

ハダカオヒキコウモリ。ほとんど毛がない。

 

暗くなるとコウモリが出て来ました。ところが異変を感じたのか、中に戻ってしまいました。しばらく待ちましたが、その日はだめで、ネットを掛けたままにして帰宅しました。

翌朝、驚いたことにネットはビリビリに裂かれていました。それでも、1頭がぐるぐる巻きで掛かっていました。手にとって調べると、ハダカオヒキコウモリという種類でした。

オヒキコウモリの仲間には、腿間膜から突き出た長い尾があり、細長い翼を持っています。この特徴的な翼により広い空間を超スピードで、直線的に飛ぶことが出来ます。また、前腕を使ってネズミのように歩いたり、木の幹や岩壁をよじ登ることも出来ます。普通のコウモリを机上に置いても、すぐには飛び立つことが出来ません。翼をばたつかせることで浮力を付け、体が浮かび上がったところで、ようやく飛ぶことが出来ます。一方、オヒキコウモリは、チョコチョコと移動して机の端から飛び込むようにして舞い上がります。

コウモリの調査には、主にミストネットを使います。ネットに掛かったコウモリを外す際には、皮手袋を着けます。鋭い歯で噛まれると怪我をするからです。しかし、手袋は左手だけに着けます。左手でコウモリを掴みながら、右手で絡まった糸を丁寧に外していくのです。両手に手袋を着けると、この作業がまったく出来ません。

 

ハダカオヒキコウモリは大きなコウモリです。体重145から183グラム、ネットから外す時、ずっしりと重く感じます。その際、半ば開いた口から鋭い歯が見え隠れして、思わず、強く握りしめたりします。ところが、このコウモリは一旦捕まるとおとなしく、もがいたり暴れたりすることがまったくありません。前腕長74から83.4ミリ、両翼を広げると最大60センチにもなります。大きな耳は左右、はっきりと分かれています。全身、ほとんど毛が無く異様な印象を受けます。皮膚は暗灰色です。喉元と翼の骨の付け根に発達した臭腺があり、常に独特の臭いを発しています。

 

マレーシアオヒキコウモリ。短毛が密生する。

 

タイ南部、フィリピン、マレー半島、スマトラ島などに分布。ボルネオ島では低地混交フタバガキ林に棲息します。日中は木の洞、岩の割れ目、地中の穴などを休み場としています。夕暮れ時に採餌に出掛けます。川原、草原、森林の上空など開けた空間を直線的にかなりのスピードで飛びます。その時には長い尾がはっきり見えます。飼育下では大きなバッタやガを好んで食べるし、野外では虫の他、鳥の巣を襲ってヒナまで食べています。

マレーシアオヒキコウモリは、体重16グラム、前腕長41.6から46ミリ。全身、赤みを帯びた暗褐色の短い毛に被われています。耳と頭には毛が無く、両耳は頭の上で、薄いベルト状の皮膚によって繋がっています。

マレー半島とスマトラに分布。ボルネオ島では低地混交フタバガキ林に棲息しているようですが、確かな記録はサラワクで2頭、ブルネイとサバで1頭ずつの4頭だけです。ブルネイとサバの記録は私が捕獲したものです。甲虫類やガを捕食しているようで、開けた川原や草原が採餌空間です。日中の休息場所は、木の洞の中です。

プリカタオヒキコウモリは、体重10.5から18グラム、前腕長40から44ミリの大きさ。3種の中では一番小さなオヒキコウモリです。上面は暗褐色、下面は明るい褐色です、両耳は頭の上でベルト状の皮膚で繋がっています。上唇には深いひだが何本も走っています。分布域は広く、インド、スリランカから中国南部、フィリピン、タイ、マレー半島、スマトラ、ジャワにまで及んでいます。ボルネオ島では低地混交フタバガキ林から山地林低部にかけて棲息、大きな鍾乳洞に数千から数万の数の巨大なコロニーを作ります。

夕方、洞窟から湧き出るコウモリの群れ。煙のように連続して昇っていく様子から、「ドラゴンフライ(竜の舞い)」と称されます。洞窟によっては数百万のコウモリが加わり、出終わるまで30分以上もかかります。

 

プリカタオヒキコウモリ。両耳が薄い皮膚で繋がっている。

 

昔、ゴマントン洞窟で垂直の支洞の出口に立ち、数分毎に捕虫網でコウモリを捕らえたことがあります。これによって、ドラゴンフライには色々な種類が混ざっていることが分かりました。ただ、プリカタオヒキコウモリがずば抜けて多かったことを覚えています。

和名 / ハダカオヒキコウモリ  学名 / Cheiromeles torquatus 英名 / Naked Bat
和名 / マレーシアオヒキコウモリ 学名 / Tadarida mops 英名 / Free-tailed Bat
和名 / プリカタオヒキコウモリ  学名 / Tadarida plicata 英名 / Wrinkle-lipped Bat

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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