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Vol.33 カワウソの仲間

2013.2.26

2011年8月、私はスカウ村に滞在していました。キナバタンガン川の河口から60キロに位置し、今はエコツーリズムの拠点として観光客が絶えない所です。

村から10キロ離れた辺りにアジアゾウの群れが来ていました。私はさっそく見に出掛けました。ここに棲むゾウは、川沿いに200キロも移動をするので、いつも会えるとは限らないのです。最初の日は大きな支流を挟んで27頭と15頭を観察しました。次の日も同じ場所に居ました。日中は森の中で過ごしますが、夕方になると川縁に出て、アシの葉を食べたり水浴をするのです。私はボートの上から、日没までたっぷりと観察しました。

次に訪ねたのは4日後でした。ゾウは去った後でした。2メートルの丈があったアシは食べ尽くされ、踏み倒され、一帯は見通しの効く原っぱに変わっていました。

そんな様子を見ている時,突然,川面に異変が起こりました。波が立ち、何かいるようです。水中に何がいるのか考えを巡らす間もなく、ドドドーッと動物の一団が現れ、次々と岸に駆け上って行きました。何とカワウソです。数えただけで11頭。さあ大変です。草原は運動場に変わりました。枯れ草で体を拭くもの、砂浴びするもの、小団を作って駆け回るもの、じゃれ合うもの。それぞれが好き勝手にはしゃいでいるように見えます。めったに見られる光景ではありません。私は高鳴る胸の鼓動を抑えることが出来ませんでした。

コツメカワウソ。群れでいることが多い。

カワウソは水辺に適応した動物です。四肢には水かきがあり、泳ぎも生活の一部です。食べ物は全種類に共通して魚やカメ、カエル、エビ、カニ、貝など水中や水辺に棲む生き物ですが、コツメカワウソは特に二枚貝や巻き貝を好むし、ビロードカワウソは魚を良く捕食するなど、体の大きさ、爪や水かきの発達の程度の違いから、食べ物の好みにも違いがみられます。

海岸沿いやマングローブの干潟、川の縁、エビの養殖場などでは、ほとんど常にカワウソの足跡を見つけることが出来ます。5本の指に水かき、ジャンプを繰り返す特徴的な歩行ですから、きっと分かるはずです。

カワウソは昼も夜も活動しますが、早朝から日中、夕方までの明るい時間帯に活発に動きます。それでいて、なかなか会えないのは何故でしょう。1つには同所に長く留まらず、せわしなく移動をしていること。人やボートが頻繁に通るところは避けているからでしょう。それでいながら好奇心の強い動物で、ボートに遇うと岸辺で立ち止まり、さらに二本足で立って、しばらく眺めていたりします。その様は田舎道に並ぶ地蔵さんのようです。

コツメカワウソ。尾の断面は丸い。

コツメカワウソは上面が暗褐色、下面は淡い褐色、あご、喉、頬と首の両脇は明灰色か白色です。爪は短く、指の先端から出ることはありません。また、水かきの発達の程度も弱いのですが、他のカワウソと比べ、川から離れて林内を歩くことも頻繁にあります。頭胴長36から46センチ、尾長22から31センチ。体重2.7から5.4キログラム、小さめのカワウソです。尾は比較的長く、頭胴長の71パーセント以上、断面は卵形をしています。

ヒマラヤからミャンマー、中国南部、タイ、マレー半島、スマトラ、ジャワ、パラワンなど広く分布。ボルネオでも全域で棲息することが知られています。さらに、海岸や湖、池、河川など水があればどこにでも棲み、森林内の細い沢でも活動しています。

ビロードカワウソは上面が暗褐色、下面が黄褐色、あごから喉、首の両脇はクリーム色をしています。頭胴長52から75センチ、尾長35から45センチ。大きなカワウソです。爪が発達し水かきも指の末節にまで伸びています。尾の断面は扁平な三角形、鼻鏡(鼻の先端部、ぬれている部分)に毛はありません。ペニスは体の後方に突出しています。

ビロードカワウソ。尾は下面が平らで断面は三角形。

西アジア、インド、ヒマラヤ、ミャンマー、タイ、マレー半島、スマトラなど分布域は広いのですが、ボルネオではサラワク、東カリマンタン、サバ州の東岸部でのみ棲息が確認されています。

短期間の旅行で幸運にもカワウソに会えたとします。そのほとんどはコツメカワウソでしょう。海岸から山奥の渓流域でも棲息しているし、個体数も多いからです。まれにビロードカワウソに遭遇することもあります。

両者の区別は、まず大きさです。明らかに大きければ後者(ビロードカワウソ)です。丸い尾は前者(コツメカワウソ)、後者の尾は三角形の断面をしています。さらに、前者は数頭から時には10頭を超す群れでいます。後者は単独か、せいぜい2頭で行動しています。

スマトラカワウソは、野外ではビロードカワウソとの区別が難しいでしょう。ただ、ほぼ全身が茶褐色であること、尾の断面がコツメカワウソのような卵形であることで判別が可能です。また、鼻鏡が短毛で被われていること、ペニスが体内に包み込まれ、外側から見えないことも顕著な特徴です。

タイ南部、マレー半島、スマトラ、ジャワに分布し、ボルネオでも記録があるのですが、第二次大戦後の確かな記録は1997年、私が採集した1頭(死体)のみ。全身骨格及び毛皮がブルネイ森林局研究部に保管されています。

ユーラシアカワウソは、日本では絶滅種となったニホンカワウソと同種類です。サラワクで採集された毛皮2枚のみの記録があります。しかし、標本整理の際の間違いではないかとされ、ボルネオ島には分布しないとする説が有力です。

和名 / コツメカワウソ  学名 / Aonyx cinerea 英名 / Oriental Small-clawed Otter
和名 / ビロードカワウソ 学名 / Lutra perspicillata 英名 / Smooth Otter
和名 / スマトラカワウソ 学名 / Lutra sumatrana 英名 / Hairy-nosed Otter
和名 / ユーラシアカワウソ 学名 / Lutra lutra 英名 / Eurasian Otter

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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