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Vol.34 キンバト

2013.3.25

キンバトと言えば、私は西表島で生活していた頃を思い出します。大学院生の時代、私は島に住み込んでイリオモテヤマネコの生態調査に専念していました。舗装もなかった道をバイクで行くと、森から森へ、道路を突っ切って横断するキンバトに良く遭遇しました。

キンバトは森から出ることは少ないのですが、山沿いにある養豚場には、毎日餌のおこぼれを拾いに、開けた所に出て来ました。私は近くの森に作ったヤマネコの餌場で、夜の観察の準備をします。ブラインドやカメラの設置、小屋内には双眼鏡、ノートなどを所定の位置に配置しました。準備が済み、観察のための待機まで間がある時は、養豚場へキンバトの観察に行きました。いつも2羽が地上に降りていました。鮮やかな緑色の羽根、赤いクチバシ。きれいで可愛いハトでした。

何度か写真に収めようと思いました。私はブロック塀に腰掛けていましたから、キンバトは標準レンズでも撮れる至近にいます。ところが、飼料が散らばっている所はコンクリートを張った部分です。これでは飼っているハトのような写真になってしまいます。土が剥き出しになった方へ追いやろうとすると、キンバトは飛び去ってしまいます。思うような写真はなかなか撮ることが出来ませんでした。

キンバトは地上で採餌する。

イリオモテヤマネコのフンを分析すると、たまにキンバトの特徴のある羽毛が含まれています。ヤマネコがキンバトを食べている証拠です。もっとも、フンからはオオクイナ、カラス、メジロ、ヒヨドリ、コノハズク、ズアカアオバト、アカショウビンなど多くの鳥の羽毛が出て来ますから、地上に降りるキンバトが特別に狙われている訳ではありません。

余談ですが、シロハラクイナは日中、地上で活動し、現在の西表島ではもっとも普通に見る事が出来る鳥の1つです。道路にある轢死体も多くがこの鳥です。もちろん、イリオモテヤマネコの重要な食べ物の1つになっています。ところが、シロハラクイナは1970年代半ばになるまで、西表島では見る事のない鳥でした。もちろん、当時はイリオモテヤマネコのフンからも検出されていません。野生動物の食事のメニューも時代と共に変化するのでしょう。

ハトの仲間を、英語ではPigeonとDoveに分けます。分類学上の差違はないのですが、一般にPigeonはアオバトやカラスバトのように体が大きく、尾が長く、どちらかと言えばスマートな外観をしているハトです。ボルネオ島に多いミカドバトの仲間もPigeonに入ります。採餌は主に樹上で、小さな果実類を食べています。Doveはキジバトやシラコバトのようなズングリした体で小型。ボルネオ島ではベニバト、カノコバト、チョウショウバト、ボタンバト、カルカヤバトなどが、この仲間です。地上に落下した種子や昆虫類を採餌します。キンバトは後者のDoveに含まれます。

オスは額から眼上部の羽毛が白い。

キンバトは全長約25センチメートル。メタリックグリーンの美しい小型のハトです。雌雄ほぼ同色。頸から下面は紫褐色、初列風切、腰、尾は黒褐色、背と翼は金属光沢のある緑色をしています。くちばしは細く、赤色です。足は赤紫色です。雌雄の違いは、頭頂から後頭がオスでは灰青色、雌では褐色。額から眼上部の羽毛がオスは白色ですが、メスは灰褐色をしています。

キンバトの分布は広く、インド、スリランカから中国南部、台湾、タイ、マレー半島、インドネシア、オーストラリア東部から北部に及びます。日本では先島諸島に留鳥として分布しています。この地域の固有亜種で、1972年、沖縄県の日本復帰の時に、国の天然記念物に指定されています。先島諸島とは、宮古諸島と八重山諸島を合わせた呼び方です。

私の経験からですが、先島諸島に分布するキンバトは、翼の緑色の金属光沢が非常にきれいです。それに比べると、ボルネオ産は黒みがかっている印象を受けます。 

地上1.8メートルの葉上に造られた巣。白い卵が2個ある。

ボルネオ島では、低地林から山地林低部にかけての原生林や二次林に棲息します。薄暗い森林を好み、開けた耕作地などへは出て来ません。低い所を直線的に素早く飛び、じきに枝に止まります。ミカドバトのように大きな川を横切ったり、大空を長く飛ぶようなことはしません。そんな習性から、普段、あまり見かけないのですが、数の少ない珍しい鳥ではありません。私は動物相の調査のために、自動カメラを使うことがあるのですが、どんなタイプの森でも、しばしば、カメラは地上を歩くキンバトを捉えています。調査用のミストネット(かすみ網)にも掛かることがあります。

採餌も専ら林内で、地上をトコトコと歩きながら食べ物を探します。落下した種子や果実など植物質が中心です。山沿いでは刈り取り後の田んぼでの採餌も観察されます。また、シロアリや小昆虫、ミミズなども食べています。文献によれば、キンバトは夜間でも食べ物を求めて飛び回ることが多いようです。

鳴き声は「ホッホロロ」または「コッコロロ」。「ウウーウウー」と繰り返し鳴くこともあります。

巣は樹上で、葉に被われた枝の上に造ります。私が見たものは、標高1,000メートルにある伐採後の二次林で、ヤシ科植物の横に広がった葉の上にありました。地上1.8メートルの高さ。地上で集めたと思われる細い枯れ枝を組み合わせた皿状のものでした。1回に2個の卵を産み、オス、メス交代で温めます。

 

和名    キンバト
学名   Chalcophaps indica
英名    Emerald Dove

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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