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Vol.35 シキチョウの仲間

2013.4.25

サバ州一の面積を誇るクロッカー山脈公園。本部は内陸の町ケニンガウから13キロ登った所にあります。標高1100メートル。私は、かつて1年3ヶ月をここで過ごしました。一番近い職員住宅まで1.2キロ、そんな山の中でたった一人の生活でした。
<ピレネーの山の男は、いつも一人雲の中で、霧に濡れ星を眺めて・・・>。毎朝、古い流行歌を歌うのが日課になっていました。夜は満天の星。朝は深い霧が9時頃まで続きます。
午前7時。「ヒー、ヒッヒッヒッヒッ・・・」。ひときわ甲高い声はヒメカッコウ。「トクトク、トクトク」。ゴシキドリです。深い霧の中に小鳥たちの声が響き渡ります。
食事の準備に取りかかると、別の鳥が鳴き出しました。「ミーチャッタネ。ミーチャッタネ。オイチー(おいしい)、オイチー、オイチーヨ」。私にはそう聞こえるのです。アカシアの枝に留まったり庭に下りたりして、シキチョウのおしゃべりは1時間も続きます。

シキチョウ。地上で小昆虫などを食べる。

シキチョウは、「カササギのようなコマドリ」という英名です。体の色合いからつけられました。全長20センチ。全身光沢のある黒色で、翼の中央に白色の太い線が入っています。分布域は広く、インドから中国南部、インドシナ、マレー半島、スマトラ、ジャワ、バリ、フィリピンの一部に及びます。ボルネオ島でも全域に分布しますが、3つの亜種に分けられています。森の中ばかりでなく、村や耕作地、プランテーションなどでも見られる大変目立つ鳥です。地上におりて採餌し、昆虫やトカゲなどを食べています。私はネズミやリスの調査のために、ケージトラップ(かごワナ)を使っていましたが、餌のバナナに引き寄せられたのか、たまにシキチョウが入ってしまうことがありました。鳴き声が素晴らしく、愛玩用に飼う人も多い鳥です。また、他の小鳥の声を上手にまねたりします。
シラガシラシキチョウは、ボルネオ島の固有種で、サバ州全域のフタバガキ林をはじめ、川岸林、マングローブ、山地林低部などさまざまなタイプの森林に棲息します。全長27センチ、顔から体の上面、首から胸に至る体の前面は光沢のある黒色、尾も黒色。腰の部分と尾の下面は白色。額から後頭部にかけて白斑があり、帽子を被ったような模様になっています。腹面は赤茶色。遭遇したら、誰もがカメラを向けたくなる美しい鳥です。

シラガシラシキチョウ。アカハラシキチョウに酷似するが頭が白い。

ほとんど森の中だけで生活し、手の届くような低い枝に止まっています。近づこうとすると、すぐに飛び去ってしまうのですが、じきに近くの枝に止まります。
本種にそっくりな鳥がアカハラシキチョウです。大きさもほぼ同じ。しかし、本種には帽子を被ったような白斑がありません。広く東南アジアに分布し、ボルネオ島ではサバを除くほぼ全域に分布、良く茂った低地林の林床部に棲息します。
ボルネオエンビシキチョウも、ボルネオ島の固有種ですが、サバからサラワク、西カリマンタンに伸びる脊梁山脈、標高900から2000メートルにのみ分布します。全長28センチ、長い尾を持ち、セキレイと良く似た体型をしています。顔から体の上面、あご、胸の下部に至る体の前半分が黒色。後半分にあたる背の上面と腹面ならびに尾の下面は純白色です。さらに、額から頭頂部にかけて白い斑があります。尾の上面は黒く、3本の白帯があり、先端部も白色をしています。充分に茂った山地林に分布、水の澄んだ流れの速い渓流域に棲息します。警戒心が強いのでしょう。なかなか見つけられない鳥です。そして、遭遇するやいなや金切り声を上げて飛び立ち、視界から消えてしまいます。
本種の繁殖習性はほとんど分かっていません。唯一、私が確認したのは2000年3月、トゥルスマディ森林保護区で哺乳動物の調査をしていた時のことです。標高1650メートル。テント生活の夜の冷え込み、55歳の私には相当堪えました。

ボルネオエンビシキチョウ。分布が限られる山地性の鳥。

夜明け。うっすらと陽がさし、風もなく、熱帯と言うのに日本の穏やかな春の気配です。北に目をやると、ひときわ高くキナバル山がそびえていました。僅かに沢の音が聞こえてきて、それよりもっと近くで、さまざまな小鳥が競い合って鳴いています。
廃道を進んで行くと、鋭い声と共に小鳥が飛び出してきました。白黒模様のスマートな姿です。小鳥はじきに見えなくなってしまいましたが、何度通っても、同じ所で同じ事が起こるのです。そこは、道から奥まった暗い場所で、水がしたたり落ちている狭い岩場でした。鳥はエンビシキチョウらしいことも分かりました。「巣があるのに違いない」。そう察した私は、遠回りをして道を隔てた正面から接近してみました。
思った通りでした。えぐれるように窪んだ岩の壁に、僅かな棚を囲むようにして巣が造られていました。ほとんどコケから出来ており、全体は浅い壺の形をしています。そして、その上には、確かに例の鳥が載っかっていました。私は巣を覗き込むことはしませんでしたが、状況から見て、抱卵中であることは明白でした。
ボルネオエンビシキチョウに大変良く似た鳥に、シロクロエンビシキチョウがあります。やや小さめで全長25センチ、尾も短めです。野外では区別が難しいのですが、後者は頭の白斑が後頭部まで広がり、白い帽子を被ったようになっています。もっとも、両者の分布が重なるのは、山地林の低山部のみです。ボルネオ島では広く低地林に分布しています。海外ではタイ、マレー半島、スマトラ、ジャワ、バリなどに分布します。良く茂った森林の中を流れる渓流域に棲息。習性や鳴き声もボルネオエンビシキチョウに似ています。食べ物は昆虫を含む小無脊椎動物で、草やコケに被われた土手や川中の岩で採餌しています。

 

和名 シキチョウ             学名Copsychus saularis     英名Oriental Magpie Robin
和名 シラガシラシキチョウ     学名Copsychus malabaricus  英名 White-rumped Shama
和名 ボルネオエンビシキチョウ  学名Enicurus borneensis    英名Bornean Forktail

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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