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Vol.37 ヒロハシ

2013.6.25

キナバタンガン川のスカウ村には、15近くのロッジ・リゾートがあります。その中で唯一、施設全体が森に包まれているのが「スカウ・リゾート」です。ランブタンやランサッなど果物の季節には野生のオランウータンがやって来て数日間滞在したり、夜陰に乗じてアジアゾウが侵入し、ココヤシを倒して若葉を食べたりもします。私はリゾート開業の2008年10月以来、季節を問わずたびたび滞在しています。

ある年の8月。朝のクルージングから戻り朝食を済ませ、部屋でくつろいでいる時です。「ドンッ」。突然、鈍い音がしました。「窓に鳥でもぶつかったのだろう」。そう、私は思いました。キンバト、アカショウビン、小鳥がぶつかるのを幾度か見たことがあったからです。ほとんどの場合、そのまま飛び去ってしまうので、その時も特に気には留めませんでした。ところが、音はその後も不定期に続き、時にはバタバタバタと、ガラスの面をずり落ちているようなのです。

そっと扉を開け、音がした庇の方を見てみました。するとどうでしょう。近くの枝にきれいな小鳥がいるではありませんか。しかも2羽が並んで・・・。色模様からクビワヒロハシだと分かりました。目を取り巻く黄色のリング模様が可愛らしく映りました。2羽はシャレー(宿泊小屋)の窓とにらめっこをしています。部屋が暗いから、ガラスが鏡のようになっているのです。ガラスへの突進は、縄張りへの侵入者だと思い込んでいる己の姿に対しての攻撃です。突撃は、「脳しんとうで気絶するか、脳内出血で死んでしまうのでは」と心配するほど激しいものでした。

クビワヒロハシ。中高木の多い林内で生活する

15分ほど攻撃を続けた後、2羽はどこかへ飛び去ってしまいましたが、こんなことが1日数回あり、滞在中の2週間、毎日続きました。

さらに、この攻撃行動は毎年、決まって8月頃に見られるのですが、他の季節には見られません。あるいは、繁殖期など特別な時期と関係があるのかも知れません。

ヒロハシはスズメ目ヒロハシ科に属する鳥の総称で、鳴管や足の構造から、スズメ目のなかではもっとも原始的な鳥と考えられています。「ヒロ(広)ハシ(嘴)」の名のとおり、幅広いくちばしを持っています。14種(15種とする説もある)が知られ、アフリカ大陸、インド北東部、中国南部の亜熱帯地域、インドシナ、マレーシア、インドネシア、フィリピンなど、主にインド洋沿いに広く分布します。

ボルネオ島には多くの種類が分布し、2種の固有種を含め、8種類のヒロハシが確認されています。8種類のうち3種はミドリヒロハシの仲間で、主な食べ物は果実です。特にどんなタイプの森にでもあり、種類も多いイチジクをつまみ採っては、大きな口で呑み込みます。また、子育てのために昆虫類も捕食するようです。

クロアカヒロハシ。夜間、体を寄せ合って眠っている。

残る5種類はほとんど昆虫食です。森林の樹上で生活し、葉の茂る枝を伝い渡りながら、または枝から空中にパッと飛び立って昆虫を捕らえます。大きなガやバッタ類も、自身が持つ巨大なクチバシで切り裂いて呑み込みます。一方、地上に降りている姿を見ることはありません。

ボルネオ島のヒロハシは、全長15~27センチメートル、足は短く、ずんぐりした体つきをしています。尾羽は1種類を除いて短く、角張った形状をしています。嘴は幅広く丸みを帯び、先端は鉤状に尖っています。羽色はさまざまですが、美しいものが多く、特にクロアカヒロハシは、誰もがカメラを向けたくなるような色をしています。

もっとも普通に目撃するのはクビワヒロハシです。全長15センチと小柄で、頭、背、尾、翼は黒色。背と翼には黄色の斑点が密に分布しています。胸から腹面はピンク、腹の下部は黄色をしています。胸と同色の首を一周する輪があり、これが「クビワ」の由来です。嘴は水色です。ミャンマー、タイ、マレー半島、スマトラに分布しますが、ボルネオ島では川岸林を始め、低地から丘陵地帯のあらゆるタイプの森林に棲息しています。

ヒロハシの巣。枯れ枝に引っかかったゴミのように見える。

アズキヒロハシは一見クビワヒロハシに似ています。しかし、全長21センチで前者よりずっと大きく、頭、首、腹面がアズキ色。首輪模様がありません。ミャンマー、マレー半島、スマトラ、ジャワなどに分布。ボルネオ島でも全域に分布しています。

クロアカヒロハシは、全長23センチ。頭、背、尾、翼は黒色。翼の一部に白い部分があります。首回りと腹面、腰の部分は赤茶色。特に幅広の嘴は上側が水色、下側は黄色をしています。分布域はクビワヒロハシとほぼ同じですが、ボルネオ島では特に川岸林で目撃されます。姿が見えない時でも、ビッ、ビッと濁ったような声が聞こえてきます。

ヒロハシの巣は特徴的です。川の上に突き出した枝に、ぶらさがった葉、蔓、集めてきたコケや小枝、草などを組み合わせてふっくらした、あるいは上が球状で長い尾を曳いたような形、全体は枝から吊り下がったような巣を造ります。側面に入口を作り、中には葉を敷いてありますが、初めて見た人には、説明を受けるまで、これが鳥の巣だとは到底理解出来ません。特に岸から離れて川中に立つ木に造られた巣は、増水時に引っ掛ったゴミとしか思えません。「なんと不安定な場所に造るのか」と驚いてしまいますが、捕食者であるヘビ、オオトカゲ、リスやネズミを近づけさせないもっとも安全な場所なのです。また、増水時の最大の水位も心得ているようです。

和名/ クビワヒロハシ 学名/ Eurylaimus ochromalus  英名/ Black-and-yellow Broadbill
和名/ アズキヒロハシ 学名/ Eurylaimus javanicus 英名/ Banded Broadbill
和名/ クロアカヒロハシ 学名/ Cymbirhynchus macrorhynchos 英名/ Black-and-red Broadbill
和名/ ミドリヒロハシ 学名/ Calyptomena viridis  英名/ Green Broadbill
他4種あり。

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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