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Vol.38 スマトラサイ

2013.7.25

スマトラサイは、かつてはインド北東部のアッサムからベトナム、マレー半島を経てスマトラ島まで分布していました。しかし、20世紀初頭には保護の必要性が浮上するほどに減少しました。現在はIUCN(世界自然保護連合)によって、世界で最も絶滅の危険にある12の動物の1つに数えられています。その中でも、ボルネオ島にのみ分布する亜種は、1987年のアジアのサイ専門家会議において、近い将来に絶滅のおそれありとされました。サラワク州、東カリマンタン州の一部にもいたという記録がありますが、現在確かな棲息域はサバ州東部のタビン野生生物保存区とダヌムバレー自然保護地域の2ヶ所だけです。 もともと数が少ない動物ですが、なぜここまで減少してしまったのでしょう。1つには何世紀にもわたる狩猟が原因です。サイの角は媚薬としての効果があり、さらにこれを長く保存することで霊力が備わるといった信仰があります。こういった迷信は今なお強く、厳しい法律があるのにもかかわらず、密猟が行われているのです。

減少のもう1つの原因は生活圏の破壊です。伐採と農園開発がサイの棲む森林をなくしてしまいました。伐採後の森林や二次林は、若返りでしばらくは豊富な食べ物を提供してくれますが、同時に密猟者にサイの姿をさらけ出すことにもなります。

2000年、タビンで飼育されていたメス、22歳。

スマトラサイは鼻の上に2つの角を持っています。角はオス、メスの両方にありますが、オスで長さ10センチ、メスではその半分の長さです。体は外観上、前半部と後半部に分かれているかのように中央に段差があり、皮膚も前足の付け根を囲むものと腹部を覆う2つに分かれた形になっています。肩までの高さは120~135センチ、体重700キログラムになります。首から尻までの背の部分と、橫腹の下半分には長い毛が雑に生えています。毛は10センチほどですが、首の部分ではやや短く、メスの場合全体に毛が短かくなっています。それぞれの足には、先端と両側にあわせて3つのひづめがあり、足跡は直径15センチ前後のほぼ円形、ひづめの跡もはっきり見る事が出来ます。

皮膚はアズキ色あるいはピンクがかった暗褐色ですが、実際は常に泥まみれです。泥浴びは体温を調節すると同時に、ヒルやダニなど付着した寄生虫を落としたり、アブなどから皮膚を守る手段にもなっています。

スマトラサイは近視で、50メートルも離れると像がかすんで見えないようです。しかし、嗅覚と聴覚はかなり優れています。普段は静かな動物で、頻繁に鳴きはするものの、グーとか、ンガーとか、フーゥなどと低い穏やかな音です。少しヤギに似たメエーあるいはミューといった声も出しますが、ヤギに比べて低く柔らかな音です。警戒時は吠えるような音を発しますが、これは肺から空気を押し出すことによるものです。

2007年、ロカウィ野生動物公園で公開された。

低地林や海岸、河川沿いの湿地林に棲息し、海に出て泳ぐ姿が目撃されることもあるそうです。普段は単独行動ですが、母子からなる2から3頭の小グループで行動することもあります。活動は日中で、飼育場で見る限りでは夜はほとんど眠っています。ウマのように立った姿勢ではなく、前足を伸ばして寝そべるか、前足を縮める代わりに、切り株にあごを載せている姿も多く見られます。

植物食で、これまでの調査では49科181種の植物を食べることが分かっています。背丈ほどの灌木を押し付けるようにしながら葉や茎などを食べます。また、果実なども好んで食べます。飼育下ではジャックフルーツをはじめとするパンノキの仲間、野生のマンゴスチン、マンゴー、バユールなど、約20種類の植物の葉を枝が付いたままで与えています。また、ジャックフルーツやバナナの果実も時々与えます。餌は1頭あたり1日50キログラムを2回に分けて与えますが、実際に食べるのは30キログラム前後です。

私は野生のスマトラサイに会ったことがありません。確かな足跡やフンも見たことがありません。スマトラサイを目的とした調査をしたことがないし、調査団に加わった経験もないからです。ただ、非公開の飼育個体は、じっくり幾度も観察してきました。私は1998年3月から2001年3月までの3年間、サバ野生生物局に勤務しました。当時、野生生物局のセピロクリハビリセンターでは3頭が飼育されており、アメリカのNGOとの共同で、保護増殖プロジェクトが始まったからです。

2012年、タビンで余生を送る。ほとんど寝たきり。

その後、3頭はタビン野生生物保存区の飼育場に移されましたが、やがて、2頭は死亡しました。残ったメス1頭は、2007年コタキナバル郊外に開園したロカウィ野生動物公園で公開されました。希少動物の展示と保護活動の啓蒙のためです。現在、この個体はタビンに戻されています。記録からすれば35歳ですが、飼育員は39歳と説明しています。

これとは別に、2008年に捕獲されたオス(20歳)と、2011年末に捕獲されたメス(推定10~12歳)の間で人工繁殖が試みられています。

しかし、はっきり言って見通しは暗いのです。さらなる捕獲個体で繁殖を試みる計画ですが、ここまで数が減ってしまうと、捕獲も至難の業です。密猟者に奨励金を出して生け捕りさせるわけにもいかないでしょうし・・・。ただ、こういった試みが無駄だとは思いたくありません。スマトラサイは手遅れだとしても、ボルネオにはアジアゾウ、バンテン、ウンピョウ、マレーグマ、オランウータンといった絶滅予備軍がまだまだいるからです。そんな彼らに今の研究が少しでも力になれることがあるかも知れないのです。

 

和名 / スマトラサイ
学名 / Dicerorhinus sumatrensis
英名 / Asian Two-horned Rhinoceros

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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