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Vol.39 ツパイの仲間

2013.8.26

 「ツパイ」。名前自体初めて聞く人も多いでしょう。この仲間は日本にいませんから無理もありません。ツパイの仲間は、外見も生態的な特徴もリスに大変よく似ています。両者ともほとんどが昼行性で、地上性のものと樹上性の種類があります。違いといえば、ツパイは吻がとがっており、両肩に白色あるいは淡い褐色の筋があること。これに対してリスの吻はそれほど尖っていないことくらいです。マレーシア、インドネシアではツパイとリスをひっくるめてツパイと呼び、両者を区別することはありません。ただし、カリマンタン(インドネシア)の一部では、リスだけをバジンと呼ぶことがあります。一方、頭骨や歯の構造をみると、両者がまったく離れたグループであることが理解できます。例えば、歯の総数はリスでは20または22本、切歯はネズミと同様に発達し、ノミのように鋭く尖っています。また、犬歯がなく、切歯と前臼歯の間は「歯隙」と呼ばれる広い隙間になっています。ツパイの場合、すべての種類で歯が38本、切歯と犬歯は、単尖歯と呼ばれる三角形の単純な構造になっています。さらに歯根の発達が悪いのか、頭骨標本を作るとき注意しないと、すべての歯が簡単に抜け落ちてしまいます。

コモンツパイ。もっとも普通に見られる。

 大きさは最も大きくなるオオツパイで頭胴長16.5~32.1センチ、尾長13~22センチ。体重154~305グラムです。独特の体臭があり、ツパイが通った所はしばらく臭いで分かります。特にいったん掛かったケージトラップには、いつまでも臭いが染み付いて残ります。くさい臭いの本当の意味は分かりませんが、特別な武器を持たないツパイにとって、捕食者から身を守る手段の1つになっているのかも知れません。 食べ物は小昆虫、その他の無脊椎動物ですが、落下した果物も普通に食べています。私は必要があって捕獲する際は、バナナやランブタンなどの果実を餌に使っています。

 ツパイは長らく最も原始的な霊長類と考えられて来ました。眼窩(がんか)周囲の骨が発達していること。前肢の第1指が他の指から分離していること。嗅覚器官が退化傾向をみせ、視覚がよく発達していることなどが、霊長類的だという理由です。眼窩とは、眼球が納まる頭骨の窪みのことです。形質的に原始的な哺乳類の特徴をよく残したものであると認められ、現在は、独立した「目」として扱われています。モグラ目、ヒヨケザル目、翼手目に比較的近いグループと考えられています。

ピグミーツパイ。特に尾が長い。

 ツパイ目は東南アジアに分布。2科5属16種が知られています。今でこそ東洋区(生物学上のアジアの熱帯地域)固有の動物ですが、祖先型は旧北区(旧大陸の温帯地域)で化石として見つかっています。ツパイは南へ分布を広げたが、第三紀の終わり頃、ヒマラヤ山脈の成立により分布域が二分されてしまった。そしてその後、北の地域では何らかの原因で絶滅したのだと考えられています。ボルネオ島には10種類が分布しており、そのうち6種類がボルネオ島固有です。ツパイはボルネオが大陸と切り離されて島となった後に、大きく種分化した動物だと考えられています。

 上記のような動物ですから、短い旅行では会えないと思うことでしょう。確かに、普通のパックツアーでは遭遇することもありません。しかし、それは棲む地域が限られるとか数が少ないという理由からではありません。ツパイはどんな森にもごく普通にいる小動物です。ただ、良く茂った森の林床に棲み、森から出ることはありません。敏捷で、枝から枝へ移るようなことはあまりしないので、見つけにくいのです。

 ぜひ、会ってみたいと言うのでしたら、どんな森でも良いのです。ダヌムバレー、タビン、ポリン、スカウ村の裏山でも結構です。朝食後1時間位、倒木などに腰を掛けて待ってみましょう。ツパイは必ずやって来ます。最も普通に見られるのはコモンツパイ。次はオオツパイ。その次はカリマンタンでしたらアカオツパイ。ブルネイでしたらペインテッドツパイです。ピグミーツパイとホソオツパイも、あんがい会う事が出来るかも知れません。ただ、ツパイは活発に動き回るので、じっくりと観察することが出来ません。それにシャイな動物で、なかなか近くまで来てくれません。せいぜい5メートルの距離です。詳しく見たいのなら、バナナを数切れ置いて待ちます。その場で、あるいは近くの木の根もとに運び、両手に持って食べる様子が観察できます。その程度でしたら、餌付けによる弊害は生じません。

ヤマツパイ。唯一山地帯に棲む。

夜行性の1種類を除いて、ツパイは日中に活動しますが、特に早朝の8~10時の間および15~17時の間が一番活発のように見受けられます。夜は、絡み合った木の根、倒木の下や空洞をねぐらにしています。地上では、両足をそろえて跳躍を繰り返しながら軽快に動き回りますが、頻繁に停止しては、地面をたたくように尾を上下にさかんに振る仕草をします。特にコモンツパイの場合、移動の際ジュジュッという単発音をよく発し、たまたま別の個体と出くわすと、ピチーッ、チーッと激しく威嚇し、お互いをけん制し合います。

コモンツパイはネパール、アッサム、中国亜熱帯地域、インドシナ、タイ、マレー半島、スマトラ、ジャワと、ツパイの中では最も広い分布域を持ち、ボルネオ島でも低地帯から丘陵地帯にかけて棲息しています。ツパイとしては大形の種類で、全長33~44センチ、体重150~230グラムになります。ほかのツパイは乳首が4個ですが、本種は普通6個です。東カリマンタンに分布する亜種では常に8個あり、別種とする研究者もいます。

和名 / コモンツパイ  学名 / Tupaia glis 英名 / Common Treeshrew
和名 / オオツパイ   学名 / Tupaia tana 英名 / Large Treeshrew
和名 / ピグミーツパイ 学名 / Tupaia minor   英名 / Lesser Treeshrew
和名 / ハネオツパイ  学名 / Ptilocercus lowii 英名 / Pentail Treeshrew
他6種類

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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