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熱帯雨林のどうぶつたち
Vol.3 サイチョウ

2011.4.24

「ンガンッ、ンガンッ、ンガンッ、・・・カー、カッカッカッカカカカカヵヵヵ・・・」。突然、けたたましい音が、こずえ越しに響いてきました。周囲の空気まで震えているように感じます。私は山道を小走りで下り、木々の隙間から音の主を探しました。すると、少し離れた木の高いところにある太い枝に、真っ黒な鳥が止まっていました。すさまじい音は、この巨大な鳥の鳴き声でした。「これだけ大きくないと、あれだけの声は出ないだろう」と、私は妙に納得しました。よく見ると腹と尾は真っ白で、尾の半ばに幅広い黒い帯模様が入っています。何より目立つのはクリーム色の大きな嘴と、その上の反り返ったような赤い突起物です。赤い色は嘴の付け根あたりまで広がっています。

「これがサイチョウか」。大きさといい声といい、私は今自分が熱帯雨林のまっただ中にいるのだということを、ヒシヒシと感じました。図鑑で見て知ってはいたのですが、本物と会えたのは、この時が初めてでした。1986年、JICA(国際協力機構)派遣の専門家としてボルネオ島山中で生活を始めたばかりの時の出来事です。

この時のサイチョウは、鳴き止んだ後も枝に留まっていましたが、やがて食べ物を求めてか飛び立って行きました。この時の音がすごいのです。ファッ、ファッ、ファッと蒸気機関車がばく進するような音をたてるのです。

鳥の翼は役割が違う羽根が集まったものです。飛ぶための大きな羽根が風切羽(かぜきりば)で、これを保護するように翼の上面に雨覆い羽(あまおおいば)があります。サイチョウは、この雨覆い羽(あまおおいば)に隙間があるため、羽ばたくたびに空気が抜けて大きな音がでるのです。

サイチョウの仲間は嘴の上に突起物をもち、これが動物のサイの角を連想させるので、サイチョウという名前がつきました。英名は「角のある嘴」と言う意味です。南アジアとアフリカの熱帯に約45種類が分布し、ボルネオ島には8種類います。私が見たサイチョウは全長105センチメートル、両翼を広げると150センチメートルにもなります。

オナガサイチョウはサイチョウと同じ大きさですが、尾の中に特別に長い羽根があり、全長130センチメートル、ボルネオ島最大のサイチョウということになります。

サイチョウの仲間は、ふだんは巣を持ちません。産卵が近づくと、メスは木の洞に閉じこもります。洞は自然にできたもので、サイチョウが造るのではありません。

メスが洞に入ると、嘴が出るだけの穴を残し、木くずや泥を使って入り口を塞いでしまいます。メスは子が巣立ちするまで洞にこもるわけですが、この間の食べ物の世話や糞の始末は一切オスの仕事になります。

木の洞は、ヘビに襲われたり、特にミツバチが巣を造ってしまうと放棄されてしまいますが、安全である限り、毎年同じものが使われます。また、サイチョウの仲間は、一生同じ相手と連れそうと言われています。

ふだん、もっとも普通に見られるのはキタカササギサイチョウ、クロサイチョウ、ムジサイチョウなどです。サイチョウとしては中型で、日本のカラスくらいの大きさです。早朝から日中にも見られますが、特に夕方は大きな群れを作り、時には30羽くらいになります。体の多くの部分が黒色なので、ちょうどねぐらへ急ぐカラスのような光景になります。

サイチョウの仲間は、甲高な、けたたましい声で鳴きます。1度聞いたら忘れない特徴のある声です。どの種類も似た声ですが、聞き慣れてくると、種類ごとの違いも分かります。

食べ物はほとんどが木の実や果実。特に野生のイチジクは種類も多く、年中実を付けていますから大切な食べ物です。村に下りてきたときはランブタン、ランサッ、ミズレンブ、ライチなど人が植えた果物も食べますし、ココヤシやビロウなどヤシ科植物の花や出来たての小さな実も食べています。虫なども食べているようですが、ちょっと離れた距離からの観察ですと、そこまでは確認できません。

ボルネオ島で生活していると、サイチョウの姿も声も生活の一部になり、毎日見聞きしても特に感じることがなくなります。しかし、初めて訪ねる旅行者にとっては、素敵な熱帯での記念になることでしょう。この仲間は日本では見られないのですから。

和名/サイチョウ
学名/Buceros rhinoceros
英名/Rhinoceros Hornbill

 

 

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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