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Vol.40 パームシベット

2013.9.25

 パームシベットはジャコウネコ科の動物です。ジャコウネコ科は、イタチ科とネコ科の間に位置する独立した動物群です。日本に分布するハクビシンがこの科に含まれます。これまではマングースも同じ科に含めていましたが、最近はマングース科として独立させています。ボルネオ島にはジャコウネコ科が8種、マングース科が3種分布します。歯数は、オビリンサン(38本)以外は40本です。歯の形態は肉食動物ですが、専ら果物を食べる種類も多く、樹上から地上、水辺など熱帯多雨林の立体構造、環境に適応した動物群です。

 パームシベットの分布は広く、スリランカ、インド、ヒマラヤ、中国南部、インドシナ、タイ、マレー半島、スマトラ、ジャワ、スラウェシ、バリ、チモール、フィリピンに及びます。同種の哺乳類が東洋区とオーストラリア区に、ウォーレス線をまたいで分布するのは珍しいことです。ボルネオ島でもほぼ全域に分布。低地のフタバガキ林や伐採後の二次林、人家近くの村落林などに棲息。もっとも普通に見られるジャコウネコです。英名の「Common」も、そんなところから来ています。山間部では真夜中、自動車道路を横断する姿もちょくちょく目撃されます。ですから、交通事故に遭う個体もままあります。私は1986~1994年まで、その多くをインドネシアの東カリマンタン州で暮らしました。生活の中心だったブキット・スハルト保護林は、バリクパパンとサマリンダを結ぶ国道のほぼ中間の丘陵地帯にありました。動物調査が仕事ですから、朝オートバイで国道を走り、不運にも轢死した動物もチェックしていました。そんな中で一番多かったのがパームシベットでしたし、私が初めて確認した個体もパームシベットだったと記憶しています。

森から出ないが、人家近くにも棲んでいる。

 パームシベットは頭胴長42~57センチ、尾長33~42センチと体長の70~90パーセントにおよぶ長い尾を持っています。それだけ樹上生活に適応した体つきだと言えましょう。体重2から2.5キログラム。背面は灰褐色、赤みが強い個体もあります。腹面は淡い灰色、顔、四肢、尾は黒色。背中には首から尾に向かって5条の縞模様がありますが、外側の筋はしばしば途切れて斑点となっています。 夜行性で、日中は樹上や木の洞で眠っています。基本的には樹上生活で枝や幹にある果実を口でもぎ取って食べています。しかし頻繁に地上にも下り、落下した果実、小動物も食べています。食べ物はイチジクなど果物の他、ヘビ、カエル、昆虫類、ミミズ、カタツムリなどです。観察の際、私は鶏肉片やバナナなどを用いていました。

 パームシベットは肛門腺から強烈に臭い分泌物を発射します。敵から逃れたり威嚇するための最後の手段で、観察中や、異常接近したくらいで発射されることはありません。繁殖は1年を通してですが、通常、1頭が1年に1度の出産、2~4頭の仔を産みます。

主に樹上で採餌、樹上で休息する。

 サバ州最大の鍾乳洞ゴマントン洞窟で動物相の調査をしたことがありました。一番の目的は夕方のコウモリの調査です。支洞にカスミ網を掛けたり、捕虫網を使って採餌に向かうコウモリを捕らえるのです。ツパイ、リス、ネズミの調査にはケージトラップや自動カメラ。その他、直接観察も試みました。森林内に雨をしのげるだけの小屋を造り、ひたすら動物の到来を待つのです。日中はコモンツパイとチビオスンダリス、ツグミのような鳥が何回もやって来ました。夜間のお目当てはヤマアラシです。一帯は石灰岩台地で、ヤマアラシの棲み家となる岩穴が大変多いのです。

 ある日、夕方17時を回った頃、ブタオザルの1群が来て餌場の上の木に陣取ってしまいました。「やれやれ、これで振り出しだ」。私はがっかりしました。ブタオザルは主に地上で活動します。ですから、餌を見つけたら食べ尽くしてしまうでしょう。それに、居座られたら、他の動物が近づくことも出来ないでしょう。

 幸いにも、ブタオザルは餌に気付きませんでしたが、群れは、ここを今晩の寝場所と決めたようです。「バフフッ、バフフッ」と喘息のような音を出す個体がいます。本当に喘息かも知れないし、鼻孔にヒルが吸い付いているのかも知れませんが、やがて暗くなり、群れも静かになりました。

地上にも下りて落下した果実などを探す。

 夜間、「ウォッ、ウォッ」と威嚇するような、あるいは仲間へ警戒を促すような音が何回か聞こえました。サルの声ですが、私からは何も見えません。ただ、樹冠の茂みがかすかに揺れたり、ツタが動くから何かがいるのでしょう。ツタの動きが大きくなったので、私はライトを当てながら目を凝らしました。するとどうでしょう。パームシベットが下りてきたのです。餌場の上を綱渡りしているのです。鉛筆のように細い蔓が絡まっているだけなのに、よく落ちないものだと感心します。パームシベットはツタを渡りきるとじきに見えなくなりましたが、上の茂みはしばらく動いていました。

 餌場にネズミヤマアラシが到来しました。何回かバナナ片を近くの木の脇へ運んで食べていましたが、そのうち餌場の真ん中で食べ始めました。その最中です。パームシベットが現れたのです。「大変だ。争いになる」。私は最悪の事態を想像し、固唾を呑みました。シベットはそのまま進入して来ました。ところが、ヤマアラシはまったく驚く様子を見せません。私は拍子抜けしましたが、まったく異なる動物が一緒にいるのも、それなりに絵になるものだなと思いました。この夜は、ボルネオヤマアラシ3頭が一緒に来たり、チャイロスンダトゲネズミもひっきりなしに到来し、森の宴会といった雰囲気でした。

和名    パームシベット
学名    Paradoxurus hermaphroditus
英名     Common Palm Civet

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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