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Vol.41 竹の中に棲むコウモリ

2013.10.25

 ボルネオ島には、竹を棲み家にしているコウモリが4種類います。そのうちユビブトコウモリ、オオタケコウモリ、タケコウモリの3種類は竹だけをねぐらとして使います。特にユビブトコウモリを除く2種類は「タケコウモリ」と呼ばれ、小さな体で、しかも頭が扁平。細い隙間から出入りするために特殊化したコウモリです。パピロスウーリーコウモリも、たまに竹の中で見つかります。しかし、本種は普通、木の洞に棲むコウモリです。

 さて、まずは竹に関する小講義です。竹を英語では「Bamboo」と言いますね。これはマレー語のbamboo(竹)がそのまま定着したものです。竹はアジア原産で、アメリカやヨーロッパには自生していません。したがって、「竹」を意味する英単語はなかったのです。

 

 

 では、日本で「バンブー」と言うと、何を意味するのかご存じですか?これは、竹類の一般的な区別の際に用いられる呼び名です。竹の仲間を日本ではタケ、ササ、それにバンブーの3つに分けます。成長すると外皮が剥がれ落ち、一般に太く成長するのがタケの仲間。成長しても外皮が付いているものがササの仲間です。ササは細い種類がほとんどです。

 バンブーは、外観はタケと同じです。しかし、生え方がまったく違っています。タケは地下茎から何本もの幹が直立し、それらが等間隔に並びます。幹と幹の間は人一人が通り抜けられる幅があります。一方、バンブーは株状に幹が伸び、全体は京水菜(葉野菜の一種)を巨大にしたような形状になります。バンブーは成長すると、株の直径が10メートルにも達し、その中に次々と新しい幹が生えてきます。一歩も踏み込む隙間がありません。時代劇では竹林を走りぬけたり、両側のタケを一刀両断にする場面がありますね。あれはタケだから出来ることなのです。もしバンブーだったら、株の中を突き抜けることは不可能です。株に沿って半周しない限り、向こう側へ行く方法がありません。ボルネオ島で目にするものはすべてバンブーです。タケはありません。

 さて、ユビブトコウモリは、専ら枯れた竹を利用します。それも、地上近くから人の背が届く低い所で、折れて片方が開いていたり、割けている筒に数頭~10数頭で潜んでいます。調査で必要があって捕らえる時は、枯れた竹を、棒きれなどでコンコンと軽く叩いてみます。何の反応もなければ、そこにはいないということです。いる時はカサカサと音がして、すぐにコウモリが這いだし、出口から次々と飛び立とうとします。これを手づかみにするのです。強く叩き過ぎると、絶対に出て来ません。危険を察知するのか、奥にしがみついたままじっとしています。たまに、脳しんとうで転がり落ちてくる個体がいます。

 

 

 バットディテクター(コウモリ探知機)という機器があります。携帯電話ほどの大きさで、コウモリが発する超音波を人の可聴音に変える道具です。日中は枯れた竹であっても、何の音もしません。コウモリがいたとしても眠っているからです。夕方5時をまわった頃になると、「チクチク、チクチク」とスズメのさえずりのような音が聞こえてきます。目が覚めて、採餌に出かける準備なのでしょう。

 ユビブトコウモリは前腕長28~30.2ミリ、尾長28~37.2ミリ、体重3.2~5.5グラム。小形のコウモリです。ミャンマー、タイ、マレーシア半島、スマトラ、フィリピンなどに分布し、ボルネオ島でも全島に分布します。

 オオタケコウモリとタケコウモリは生きた竹を利用しています。大変小さなコウモリで、竹の太さに関係なく、前者は入口が幅5ミリ、後者は幅3ミリの割れ目(長さは15ミリあれば十分)にしか入らないために頭が極端に平たくなっています。穴は自分で作るのではなく、昆虫が作ったものを使います。

 「竹林を伐採したら、倒れた竹の先端部にタケコウモリが入っていた」と、レンジャーから聞いたことがありました。しかし、意図して捕獲出来るコウモリではありません。我々が、細い竹を高さ7~10メートルまで登ることは無理です。それどころか、異常な揺れを感じたコウモリは、いち早く飛び出して逃げてしまいます。私が採集したものは、すべて偶然にもミストネットに掛かった個体です。

 

 

パピロスウーリーコウモリは小さな木の洞で休息することが多いのですが、割れていたり、ナタなどで大きく開けられた生竹に入っていることがあります。細い竹ではなく、直径8~10センチほどの竹に多い印象を受けます。「woolly」という名前の通り、フワーッとした大変きれいなコウモリです。この仲間は、ヒナコウモリ科の中でもウーリーコウモリ亜科に分類され、ボルネオ島には8種類が分布しています。煙突状の耳と、長いくさび状の耳珠が特徴です。耳珠とは耳介の付け根にある突起です。ウーリーコウモリはほとんどが小形の種類で、モリウーリーコウモリは体重2グラム前後、ボルネオ島では最小の哺乳類です。ウーリーコウモリの中ではパピロスウーリーコウモリが最大で、前腕長38~49ミリ、尾長48.5~50ミリ、体重6~13グラムあります。本種はインド北東部からインドシナ、マレーシア半島、スマトラ、ジャワ、スラウェシ島にまで分布します。ボルネオ島では全域に分布します。しかし、調査中、竹の中から偶然に見つかるとか、夜間、ミストネットに掛かるくらいで、なかなか会えるコウモリではありません。林内で生活し、開けた場所には出ないのですが、特に地上すれすれの低い所で採餌するので、たまにミストネットに掛かってしまうのです。

和名 ユビブトコウモリ         オオタケコウモリ            タケコウモリ
学名 Glitylopusschropus        Tylonycteris robustula        Tylonycteris pachypus
英名 Thick-thumbed Pipistrelle    Greater Bamboo Bat          Lesser Bamboo Bat

和名 パピロスウーリーコウモリ
学名 Kerivoula papillosa
英名 Papillose Woolly Bat

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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