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Vol.43 ヤマアラシの仲間

2013.12.25

 私がヤマアラシを最も頻繁に観察したのは、サバ州のゴマントン保存林でした。そこにはサバ州最大の鍾乳洞があります。「ドラゴンフライ」(採餌に飛び立つコウモリの巨大群)や、食用とするアナツバメの巣の採集で知られた所です。観光客は午後4時までには退場しなければなりません。しかし、私は一帯を管理するサバ野生生物局に勤めていましたから、職員住宅を利用出来たし、昼夜を問わず保存林を自由に歩くことが出来ました。

 ヤマアラシは夜行性で、日中は森林の地下のトンネルや溝に潜んでいます。溝は倒木の下に作られ、倒木が天井あるいは屋根の代わりをしています。トンネルや溝の大きさは直径20センチあり、坑道は何本かに分かれていて出入口も複数あります。ゴマントンのような石灰岩台地ではトンネルは少なく、自然に出来た穴を利用しています。実際に使っている穴は入口付近がきれいになっていて爪跡が多数あり、少し奥にはボルネオテツボクやバンダンヤシの種子の殻がいくつも転がっています。運び込んで食べた痕です。試しに穴に顔を突っ込んでみたのですが、ヤマアラシの特別な臭いはありませんでした。

ネズミヤマアラシ。長い尾を持っている。

 ヤマアラシは珍しい動物ではありません。林道の脇などで普通に足跡を見かけるし、そんな所にピーナツやサツマイモ、バナナなどを置いておくと、じきに来るようになります。

 月夜でも林内は真っ暗です。でも、ヤマアラシの到来はすぐ分かります。ゴソゴソと音がするのです。落ち葉がある時は音も相当なもので、最初はイノシシが来たのかと思いました。近くにいるときは、ゴッ、ゴッ、ゴッと硬いものをかじる音も聞こえてきます。

 ゴマントン保存林ではたくさんの動物を観察しました。宿舎のすぐ裏手に作った餌場では、日中はチビオスンダリス、コモンツパイ、オオツパイ、ブタオザル、地上性の小鳥たち。夜になるとチャイロスンダトゲネズミ、アカスンダトゲネズミ、オナガコミミネズミ、パームシベット、ネズミヤマアラシ、ボルネオヤマアラシなどです。

 パームシベットは、決まって木の上から来ました。地上から樹冠にまで斜めに伸びる蔓、直径1センチもない蔓を伝って降りるのです。到来を知らせるのは、他ならぬブタオザルでした。ブタオザルの群れは、主に地上で活動しますが、夜は樹冠で眠ります。パームシベットが近づくと、何頭かが「気をつけろ」と警戒音を発し、仲間へ知らせるのです。

マレーヤマアラシ。体の前半部は黒色、後半部は白色が目立つ。

 驚いたことがあります。餌場には数種類の動物が来るのですが、お互い、特別に警戒したり、威嚇したり襲ったり、逃げたりすることがないのです。スンダトゲネズミでさえ、パームシベットと鼻をつき合わせながらピーナツをあさっています。それですから、私の写真には、同時に3頭のボルネオヤマアラシが写っているものや、パームシベットとネズミ、ヤマアラシとネズミ、ヤマアラシとパームシベットといったものが何枚もあります。

 ところが、ネズミヤマアラシはボルネオヤマアラシの動きを常に見ていて、同時に餌場に入ることは一度もありませんでした。近すぎる種類は、けん制しあうのかも知れません。

 ヤマアラシはリスやネズミと同じ齧歯類ですが、ウサギよりさらに大きく頑丈なつくりをしています。鳥の羽軸に似た巨大な刺毛が全身を覆い、外敵に襲われたりすると、この刺毛を総立ちにして身を守ります。 ボルネオ島には3種類のヤマアラシが分布します。ネズミヤマアラシは他の2種類と違って長い尾を持ち、まるで巨大なネズミのようです。尾の表面はウロコ状になり、先端は房になっています。全体の刺毛が短いことも特徴で、他の2種類と比べてかなり小型です。頭胴長37.5~44センチ、尾長15~24センチ、体重1.5~2キログラム。ボルネオ島では低地林から山地林にかけて棲息します。その他マレーシア半島、スマトラに分布します。

ボルネオヤマアラシ。全体が、灰色がかった赤色。

 マレーヤマアラシは頭胴長55~63センチ、尾長9.5~13センチ、体重は8~9.8キログラム。体の前半分は黒色。後半は背面の白い部分が目立ちます。長い刺毛は白色、途中に黒帯があります。ボルネオ島全域の低地林に棲息しますが、ボルネオヤマアラシに比べると少ない気がします。その他タイ南部、マレーシア半島、スマトラに分布します。

 ボルネオヤマアラシはボルネオ島のみに分布する固有種です。低地林から山地林にかけて分布。3種類の中ではもっとも良く見られるヤマアラシです。頭胴長50~66.5センチ、尾長9~13.5センチ、体重8キログラム前後です。全身を覆う刺毛は直径0.5センチ、長いものは30センチもあり硬く、先端は鋭く尖っています。慣れないとマレーヤマアラシと区別しにくいのですが、本種は刺毛が長く細く、房状になっています。体は灰色がかった赤茶色で、白色がそれ程目立ちません。

 この大型の2種類とも尾の刺毛はストローのように空洞で、尾を振るたびに互いにぶつかり合いシャカシャカと音をたてます。本などには、これは「敵を威嚇するため」と書かれています。しかし、それだけではないようです。私はヤマアラシを半年ほど飼ったことがありました。すっかり慣れ、私が呼ぶと常にシャカシャカとやりながら走ってきました。

 野生動物を安易に飼うことは出来ません。日本では法による規制もあります。しかし、そこはボルネオ島の山中。広い敷地に人が住めるくらいの大きなケージを幾つも作り、私はじつに多くの哺乳動物を飼育しました。小動物園のようで、噂を聞いた親子連れなどが、ちょくちょく町からやって来ました。私はと言えば、彼らから学ぶことの多い日々でした。野外での行動は、普段、なかなか観察することが出来ないのです。

 

和名 /ネズミヤマアラシ  学名 / Trichys fasciculata
英名 / Long-tailed Porcupine

和名 /マレーヤマアラシ  学名 / Hystrix brachyura
英名 / Common Porcupine

和名 /ボルネオヤマアラシ 学名 / Thecurus crassispinis
英名 / Thick-spined Porcupine

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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