日本全国の動物園と水族館をつなぐ情報誌、「どうぶつのくに」「どうぶつえんとすいぞくかん」公式Webサイト

どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.44 ネズミの仲間

2014.1.26

 世界の哺乳類は約4300種。齧歯類が圧倒的に多く、全体の41パーセントを占めます。次がコウモリ類で23パーセント。齧歯類の中ではネズミが65パーセント、リスが15パーセントです。世界でネズミの種類が非常に多い理由は、様々な環境つまり高地から低地、都市から無人地帯にまで適応し、その環境に合わせて分化していったからでしょう。

 ところが熱帯、特にボルネオ島ではこの関係が逆転します。哺乳類225種(野化した家畜を除く)のうち、もっとも多いのがコウモリの92種(41パーセント)。次が齧歯類の62種(28パーセント)です。齧歯類ではネズミの25種よりリスの仲間が34種と多く、リスのうち14種はムササビとモモンガで、滑空することが出来る動物です。これは熱帯多雨林が持つ立体構造によるものです。全体の高さが50メートルにもおよぶ森林では、地上部、低層部、中層部、樹冠部にそれぞれ異なる果実をつける植物があります。また、それらに頼っている昆虫、鳥類、哺乳類も多種におよびます。コウモリにとっても採餌やねぐらに利用できる様々な空間があります。その空間に合わせて多様化したのです。空中を移動するムササビなどが多いことも同じ理由からです。

タカネクマネズミ  もっとも高地に棲息する。

 さて、今回はまだ話していないボルネオ島のネズミについてです。体重600グラムになるヤマオオクマネズミから15グラム前後のヤマネマウスまで25種類。海岸から標高3800メートルの高山、地上から樹冠部まで、様々な環境に棲んでいます。

 市街地でも特に港湾地帯や市場に棲み着いたドブネズミ、住宅街や農村に多いクマネズミ、ナンヨウネズミ、ハツカネズミ。これら4種類も野生種には違いありません。しかし、人間生活に深く侵入し一般に「家ネズミ」と呼ばれています。悪さもします。その他の21種は野外性です。マレーシアクマネズミ、コメクマネズミは家屋へ侵入することはありません。しかし、耕作地、特に水田に壊滅的な害を及ぼすことがあります。

 クマネズミ属(Rattus)は繁栄したグループで、ボルネオ島には6種類が分布しています。そのうち5種類が上述した厄介者です。違った見方をすれば、人間生活に入り込み、食料の安定確保を果たした「賢い動物」と言えるかも知れません。ところが、ネズミ全体からみれば0.数パーセントに過ぎない家ネズミが、「汚い・害をする」というネズミのマイナスイメージを定着させてしまったのです。ほとんどのネズミは人間生活とは関わりのない「愛すべき自然の住人」なのです。ネズミは、ほとんどが夜行性なので目に触れる機会が無いのですが、実にきれいな色合いで、愛くるしい小動物です。

オグロクリゲネズミ 特に敏捷な動きをします。

 クマネズミ属の残る一種はタカネクマネズミです。ボルネオ島ではキナバル山の標高2150メートル以上と、トゥルスマディ山の高地でのみ確認されています。キナバル山の標高3800メートルにあるサヤッサヤッ小屋では、夕方、まだ明るいうちから周辺をせわしなく動いている姿が目撃されます。ツクツクした刺毛が目立ちますが、全体は軟らかい下毛に覆われています。

 同様に高山性のヤマオオクマネズミは、全体が明るい灰色、腹面は白色。フワーッとした軟毛に覆われています。最大で頭胴長29.5センチ、尾長34.3センチ、体重600グラムに達します。その巨大さに驚きますが、調査で捕獲しても暴れることなく、逆にそのおとなしさにも驚かされます。私はブルネイのレタック山、サバのクロッカー山脈北部で捕獲していますが、キナバル山、トゥルスマディ山、サラワクのムル山、スマトラ島でも記録があります。

オナガコミミネズミ 低地林から山地林低部に棲息する巨大ネズミ。

 スンダトゲネズミ属(Maxomys)は特に南アジアで繁栄するグループで、ボルネオには6種類が分布します。ガラス質のような硬くて鋭い刺毛、尾の色が上面(黒色か褐色)と下面(白色)で異なることなどが特徴です。刺毛は背中を逆なでしてみると手に突き刺さるような感じです。一見、日本のアカネズミやヒメネズミのようであり、地上生活中心で生態的にも似ています。

 クリゲネズミにもたくさんの刺毛があります。尾は黒っぽい単一色で非常に長く、先端に僅かに毛があります。尾は長く、頭胴長の125パーセント以上になります。

 オナガコミミネズミの尾はさらに長く、頭胴長の135パーセント以上あります。大きなネズミで、最大個体では頭胴長27.3センチ、体重532グラム。樹上でも地上でも生活します。哺乳類全体に言えることですが、尾が長い動物は、一般に樹上中心の生活をします。

 1985年、初めてのボルネオ旅行で、私が最初に出会った動物がオナガコミミネズミでした。キナバル公園での出来事で、林内に架けられた水道パイプの上を、矢のような速さで行き来する姿が印象的でした。

 ハイイロキノボリネズミは、上面が明灰色、下面は白色。刺毛がなく全身綿毛。尾の先端1/3が白色の大変きれいなネズミです。長らくサラワク博物館で懸賞金がついていたほどの希少種でした。その後、ポーリン温泉の森にキャノピーウェイが架けられ、その上にワナを掛けたところ、立て続けに数頭が捕獲されました。実は完全な樹上性で、地上に仕掛けたワナでは捕れなかったのです。私はブルネイで捕獲し、3ヶ月ほど飼育しましたが、与える餌を片っ端から巣穴に詰め込み、最後は身動きが出来なくなってしまうほど、貯食性の強いネズミでした。

ボルネオ島のネズミ 25種類
クマネズミ属     Rattus       6種   スンダクマネズミ属   Sundamys  2種
クリゲネズミ属    Niviventer     2種   スンダトゲネズミ属   Maxomys   6種
コミミネズミ属    Leopoldamys   1種   レノスリクス属     Lenothrix    1種
ピセケイロプス属  Pithecheirops   1種   ハツカネズミ属     Mus      2種
ヤマネマウス属   Chiropodomys   3種   オナガマウス属    Haeromys   1種

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

カテゴリー

カテゴリー一覧

このカテゴリーの他の記事

ページTOPへ

Copyrights © 2010 Doubutu-no-kuni All Rights Reserved.
誌面、Webにおけるあらゆるコンテンツの無断複写・転載を禁じます。