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Vol.45 スカンクアナグマ

2014.2.25

 スカンクという動物を知っていますね。尾の付け根に極度に肥大した臭腺を持っています。身の危険を感じると、臭腺から有毒な液体を噴射します。この液体には強烈な悪臭があり、これで敵を撃退するわけです。身を守る目的では十分な効果があるのですが、これによって「スカンクは厄介者」、「嫌われ者」。というイメージを固定させてしまいました。カナダには「悪魔の息子ども」と表現した書物もあります。

 臭腺はすべての食肉類にあります。特にイタチ科の動物は、発達した臭腺を持っています。スカンクの臭腺、歯が持つ幾つかの特徴は、長らくイタチ科の動物に共通したものと考えられ、スカンクはスカンク亜科として、イタチ亜科、アナグマ亜科、カワウソ亜科などと共に食肉目イタチ科の動物群に位置づけられてきました。ところが、臭腺の発達が極めて高いことと構造の違いや、DNA分析を主とした遺伝学的研究の結果などから、全体はお互いに類似しているものの、個々の部分では亜科間の共通性と相違が明らかになり、スカンク類は、食肉目スカンク科として独立した動物群になりました。これまでのスカンク亜科とスカンクアナグマ亜科が含まれ、現在4属12種に分類されています。10種が南北アメリカに分布。それらから遠く離れて南アジアに2種が分布しています。南アジアの2種類は、スカンクアナグマ(別名ジャワスカンクアナグマ、スンダスカンクアナグマ)がスマトラ、ジャワ、ボルネオ島に。パラワンスカンクアナグマがパラワン島に分布します。

長い吻、発達した頑丈な爪を持っている。

 スカンクアナグマはネコくらいの大きさで頭胴長35~55センチ、体重1.4から3.6キログラム。吻が極度に長く突き出ており、顔の膨らみがありません。イノシシの顔をさらに長くした感じです。尾は5センチほどしかなく、遠くからは見えません。全体はほとんど黒一色ですが、頭から肩の上部にかけて幅広い白帯があります。特に頭頂から首の背面は白一色といって良いほどです。

 ボルネオ島での分布には偏りがあり、私が生活した東カリマンタンとブルネイでは村人から話には聞いたものの、自分で見たというはっきりした記憶がありません。ただ、州境を僅かに越えた南カリマンタンのタンジュン辺りではスカンクアナグマを知っている人も多く、サドゥーという地方名で呼んでいました。

 島の北部のサバ州では、西海岸では同様に情報が少ないのですが、東海岸地域では決して珍しい動物ではありません。特にゴマントン、スカウ、タビンではナイトドライブで遭遇することが多いし、テルピドからセピロク辺りまでの国道では、時々轢死体を見ることがあります。そう言えば、トゥルスマディ山の標高1000メートルで、臭いを頼りにスカンクアナグマを追跡したことがありました。低地に棲む動物ですが、標高2100メートルの山地林での記録もあります。雑食性で軟らかい植物質の他、ミミズや土壌性昆虫、ヘビやカエルなどの小動物が主な食べ物です。地上で見つけた鳥の卵や、比較的新しい腐肉も食することが知られています。

森の中に頻繁に使うルートがある。

 日中は地下の穴で眠り、夜活動します。穴はせいぜい60センチ程度の浅いものです。また、サバ州では洞穴で日中を過ごす個体も確認されています。早朝、遭遇することもあります。鼻先が地面に着いてしまいそうな姿勢で、よたよたと小走りに移動します。それが、前を見ているのかと疑いたくなるくらい極端に前屈みの姿勢で、じっと立っている私にほとんどぶつかりそうになったこともありました。魚捕りの網があれば捕まえられたでしょう。かなり決まった通り道を持っているようで、同じ場所に自動カメラを設置しておくと、3日に1日、場所によっては3日に2日の割合で写真に納まります。文献では、2~3頭で行動することが多いとありますが、私が遭遇したのは決まって1頭のみでした。

 スカウリゾートは敷地の最上部にレストランがあります。夕食を済ませ歓談の後、宿泊客は足元に気を配りながらシャレーまでくだります。それぞれ20から50メートルの距離です。その間に、たまにスカンクアナグマに遭遇することがあるのです。

 移動の際、短い尾は常に立てていて、左右に振っています。後ろからは肛門腺がはっきり見えます。危険を感じると、肛門から薄い緑色をした液体を噴射します。液は数10センチしか届かないのですが、大変な悪臭です。まさか、四六時中、噴射しているのではないのでしょうが、スカンクアナグマが通った道には3日から1週間くらい、はっきりそれとわかる臭いが連続して残っています。

村落周辺やアブラヤシ農園に来ることも多い。

 においは骨にまで残ります。一度、車にはねられた死体を見つけました。車を止めて、まずは写真を撮りました。その後、頭胴長、体重など必要項目の測定。回収しようと考えたのですが、帰路ならともかく、強烈なにおいのする死体を車に載せたまま調査に出るわけにはいきません。そこで、脇の土手に埋め、位置および周囲の森や環境の状態をいつも以上に詳細に記録しました。一帯は手入れの悪い農園と原野。道路はまっすぐで、目印となるものがないのです。へたに埋めたら、分からなくなってしまいます。

 2ヶ月後、再び現地を訪ねました。死体にはオオトカゲに荒らされた痕がありましたが、すっかり骨だけになっていました。私は頭骨だけを回収し研究室へ持ち帰り、ていねいに洗いました。そして、十分に乾燥した後、あらためて骨の細かな部位を測定しました。強烈なスカンク臭は、その時まではっきり染み付いていました。

 

和名 /スカンクアナグマ
学名 / Mydaus javanensis
英名 / Teludu

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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