日本全国の動物園と水族館をつなぐ情報誌、「どうぶつのくに」「どうぶつえんとすいぞくかん」公式Webサイト

どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.46 アオウミガメ

2014.3.25

 20年も前のことです。私はJICA(国際協力機構)派遣の専門家としてインドネシアの東カリマンタン州サマリンダ市に住んでいました。そんな折、当時大学生だった長男が、夏休みを利用して訪ねて来ました。私はそれを機に短い休暇を取り、海好きな息子と無人島へ行くことに決めました。お目当てはウミガメを観察することです。

 サマリンダから空路、ブルンガン県のタンジュンセロールへ。空港では滑走路の脇でスピードボートが待っていました。私たちは空港を横切って直接ボートへ。実にローカルな空港です。ボートはカヤン川を下り、じきに外洋へ。珊瑚礁の海が実にきれいでした。

 1時間でデラワン島へ。ここには建設中のリゾートがあり、当時は、一般客が来ることはありませんでした。つまり、私たちは特別な客で、滞在中、至れり尽くせりのサービスを受けました。出かける時も「案内」ではなく、一緒に遊ぶという雰囲気です。

砂浜には無数の上陸痕があった。

 デラワン島には、リゾートを隔ててバジャウ族の村があります。フィリピンから移住してきた海洋民族です。村人は毎朝、海でトイレを済ませます。それが、潮の関係でプライベートビーチに流れ着くのです。「これはたまらない」と、会社は各家庭にトイレを造ってあげました。ところが、村人はこれを使わないのです。「狭いし、水も運ばなければならないから」という理由です。トイレの建物は物置がわりに使われ、村人は相変わらず海で用を足していました。これには、リゾートの全員が悲鳴を上げていました。

 夕方になると、何匹ものウミガメが桟橋の先を泳いでいました。また、海岸では孵化して数日、甲長5センチの小ガメが、波間を漂うようにしている姿が観察出来ました。

 翌日、目的の島へ向かいました。ただし、カメの上陸は大潮の満潮時に限られます。この日は新月ですから、朝夕の6~8時頃です。それではと、夕方までカカバンという無人島で過ごすことにしました。この島には砂浜がなく、ウミガメは上陸しません。 

 カカバン島は、海岸線がぐるり一周、急峻な斜面になっています。急斜面は海の底まで続き、そこには色とりどりの熱帯魚が群れていました。外観からは想像出来ませんが、内側はカルデラ湖のような湖になっています。第二次大戦中は、オランダ軍の飛行艇が滞在していたと聞きました。今は無数のタコクラゲが浮遊し、それは幻想的な光景でした。

産卵は、大潮でも冠水しない場所を選ぶ。

 ウミガメの島、サンガラッキには5時頃着きました。皿を伏せたような真っ平らな島です。地図に載っていませんが、ちょっとした地図にあるサママ島のすぐ南にあたります。

 日が暮れた7時頃、海岸を歩いてみました。しかし、ウミガメの気配はありません。「ボートから遠ざかったら、帰りが大変だろう」と、少し行って引き返しました。と、その時です。浜辺の黒い塊に気づきました。先程はありませんでした。「これは」と思い、ライトをあてると、大きなウミガメでした。「驚かせたらいけない」。私はライトを消しました。

 ウミガメは砂浜を突き進んで奥へ向かいます。想像以上の速さです。ウミガメは、さらにグンバイヒルガオが茂るあたりまで這い上がって行きました。大潮の満潮時でも冠水しない場所です。そして、そのあたりが産卵場となるのです。途中、何ヶ所かで穴を掘っていました。最初、前肢で堀り、その後、後肢で掘り続けます。

 そのうち、あちらこちらでウミガメの上陸がありました。しかし、1時間という短い滞在では、産卵そのものを見る事は出来ませんでした。

 アオウミガメは甲長1メートル、体重230キログラムに達する大きなウミガメです。背甲は上から見ると楕円形をしています。「アオウミガメ」、「Green Sea Turtle」という名前は体脂肪が緑色であることに由来します。これは食べ物の色素が体組織を染めるからです。食べ物は海草や藻類です。太平洋、インド洋、大西洋と世界の熱帯、亜熱帯地域に広く分布しています。日本では小笠原諸島や南西諸島が主な産卵場ですが、1999年には鹿児島県で、さらに2008年には愛知県豊橋市の海岸での産卵が確認されています。1シーズン80~150個の卵を数回に分けて産みます。卵は2ヶ月前後で孵化します。

1時間足らずで海に戻っていく。

 良く比較されるアカウミガメは一回り小さく、最大で甲長1メートル、体重180キロ。頭の大きなウミガメです。温帯から亜熱帯に分布し、雑食ですが、主に貝類や甲殻類を食べています。日本で話題となるウミガメの産卵は、多くの場合、アカウミガメです。

 アオウミガメは国際法上、輸出入は全面禁止。ほとんどの国で、捕獲も卵の採集も禁止しています。しかし、南方の島々では今でも、肉も卵も食べているようです。

 サマリンダの屋台で飲んでいると、ドブ小路を卵売りが通ります。卵は直径4.5~5センチの球形。楕円形ではありません。殻は鶏卵のような固いものではなく、軟らかなビニル布のようです。だから、殻を割るのではなく破って、ちょっと醤油をかけて熱いうちに食べるのです。卵白は茹でても固まりません。黄身はザラザラした舌触りです。特別においしいものとは思いませんが、屋台では良く食べたものです。

 サンガラッキ島からの帰路を急いだのは、干潮になると環礁から脱出出来なくなるからです。それは仕方ないとして、ボートには照明灯が無いのです。しかし、ボートマンは「大丈夫だ」と、言い切りました。このところ豪雨がないので、流木もないと言うのです。

「だけど、国境警備艇に知れたらね、やつら暗闇の中でも機関銃を撃ちまくるんだ」。これには私も恐怖を通り越し、普段考えたこともない神頼みをしました。

和名    アオウミガメ
学名 Chelonia mydas
英名    Green Sea Turtle

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

カテゴリー

カテゴリー一覧

このカテゴリーの他の記事

ページTOPへ

Copyrights © 2010 Doubutu-no-kuni All Rights Reserved.
誌面、Webにおけるあらゆるコンテンツの無断複写・転載を禁じます。