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熱帯雨林のどうぶつたち
Vol.6 セイラン

2011.4.24

2009年11月から2010年10月までの間に、私は3回、サバ州のクロッカー山脈に赴き、合計6ヶ月間、動物の調査をしました。目的は、国立公園の中で行われている狩猟が、スイロク(シカ)やヒゲイノシシなどの個体数や密度に影響を及ぼしているかどうかを明らかにすることで、日本政府とサバ公園局との共同研究の一環です。2カ所の調査地に20台ずつの自動カメラを設置し、昼も夜もカメラ任せの監視を続けるわけです。カメラは500メートル毎に設置してあります。見回りは2週間に1度の割合。道もない山ですから、次のカメラまで1時間もかかるのは当たり前。1カ所では日帰りで3日かかり、もう1カ所では、途中、川の近くでビバークし、翌日作業を続けます。体力的には結構つらいのですが、終始ドクゼミが鳴き、巨大リス「クリームオオリス」が「カッ、カッ、カッ」とけたたましい声を上げながら樹上の林冠を走り抜けたり、サラサラと木々を揺さぶりながら枝から枝へ移っていくカニクイザルの群れを眺めていると、「これほどの贅沢はない」と至福な気持ちになってきます。

深い森林の中で、声を頼りに探し当てた。

深い森林の中で、声を頼りに探し当てた。

「オオッ」。調査も大詰めの10月半ば、先頭を歩いていたシアンゴン君が歓喜の声をあげました。手には1メートル近いセイランの羽根が握られています。偶然とは言え、こんな見事な新しい羽根は、いつも落ちているわけではありません。彼は、それをとっさに帽子に差すと、右手にパラン(山刀)を持ち、腰を低くして踊りを始めました。

シアンゴン君とヌー君は山へ入るときの助手で、ムルット族の出身です。踊りは首狩りの時の出陣の舞で、頭につけたセイランの長い羽根は、いわば晴れの舞台の象徴なのです。踊りは、首狩りがなくなった今でも、儀式などで見ることができます。

セイランはキジ目キジ科の大きな鳥です。オスは全長2メートル弱。全身は青みを帯びた褐色ですが、全体に黒あるいは白色の細かな点状および線条斑が分布し、繊細な模様を描き出しています。白髪頭ですが、額には黒色の冠毛があります。頬から頸の上部は青い肌が露出し、頸と胸全体は赤茶色です。脚は赤色をしています。

尾羽が著しく長く、130センチにも達します。また、非常に発達した次列風切羽(かざきりば)があり、そこには、金色を帯びた鉛色の眼状紋が一列に並んでいます。これが、ギリシア神話の巨人アルグスの目のようだというので、学名と英名にArgusと付けられているわけです。一説に、中国の空想上の鳥、「鳳凰」のモデルとも言われています。

オスは全長2メートル近い。

オスは全長2メートル近い。

メスは体が一回り小さく、尾長33センチ、全長80センチほどです。メスには長い尾羽と風切羽がなく、体色もオスよりくすんでいます。

セイランはボルネオ島、スマトラ島、マレーシア半島の標高300メートルくらいから上の森林に棲息します。特に1000メートルくらいを中心に600~1200メートルくらいの標高に多い印象を受けますが、決まって原生林か、一度伐採が行われた所でも木々が鬱そうと繁る深い森林です。山歩きをしていて、「自分は今、本当に素晴らしい熱帯林の中にいる」。と実感できる森林です。逆に低地の湿地林や、林床がぬかるむ森には棲んでいません。

深い熱帯林を歩いていると、セイランの声が聞こえてきます。「ファオ、ファオ。・・・・・・。ファオ、ファオ。・・・・・・」。メスを誘うオスの声です。声は500メートル先からも聞こえ、季節を問いません。夜中にも聞いたように思うのですが、これは記憶があいまいです。

同様に、熱帯林を歩いていると、しばしばセイランの踊り場に出会います。相撲でいう土俵のように土が踏みならされ、落ち葉などはきれいに取り除かれています。直径は5メートルほど。平らな所が多いのですが、多少の傾斜がある所でも見られます。オスは大きな声でメスを誘い、ここで求愛行動をとるわけですが、クジャクと同じように翼と尾羽を広げます。この時、風切羽の眼状紋が顕わになって実に美しいのですが、この場面を、私は動物園でしか見ていません。

しかし、声を頼りにセイランを探し当てたことは、これまで3度ありました。声はすぐ近くから聞こえてくるようですが、それでいて、なかなか距離が縮まりません。道のない山を、相手に気づかれないよう忍び足で進むのです。夢中になりすぎて、帰り道を探すことに苦労したこともありました。

首尾良く姿を確認したら、さらに慎重に近づきます。

拾ったオスの風切羽。眼状紋が鮮明だ。

拾ったオスの風切羽。眼状紋が鮮明だ。

「こんな近くまでヒトが来るはずがない」。セイランはそうとでも思っているのでしょうか、おもしろいことに、出会った後は、かなり近づいても逃げません。10メートルの距離があれば、いつまででもじっくりと観察できます。私は近づきすぎて、望遠レンズでは収まらず、標準レンズに交換した経験があります。

オスは単独でいますが、メスは数羽で生活しています。キジ科の鳥の多くがそうであるように、セイランも地上中心の生活です。地上の木の芽や葉、草、落ちた木の実、昆虫などが主な食べ物です。しかし、夜は決まって樹上で眠っています。

1回の産卵は平均2個で、他のキジ類に比べると少ないのですが、多くのキジ類と同様に、子育てはメスのみで行います。

和名/セイラン
学名/Argusianus argus
英名/Great Argus

 

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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