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熱帯雨林のどうぶつたち
Vol.11 マレーシアンアースタイガー

2011.4.26

英名は「大地の虎」ですが、アースタイガーは哺乳類のトラではなく、東南アジアに分布するトリクイグモ(鳥喰い蜘蛛)の名称です。トリクイグモはオオツチグモ科に属する800種以上のクモの総称で、鳥を襲うと言われる大形のクモです。北アメリカ南部から南アメリカ、オーストラリア、アジア、アフリカなどの熱帯に分布しており、分布域が広いことから、北アメリカでは「タランチュラ」、南アメリカやオーストラリアでは「バードイーター」、東南アジアでは「アースタイガー」、アフリカでは「バブーンスパイダー」などと呼ばれています。ほとんどの種類は地中に穴を掘って生活します。しかし、樹上に巣を作る種類や、あまり巣穴を掘らない種類もあります。すべての種類に共通することは、網を張らない徘徊性のクモだということです。

1.夜行性、日中は樹洞などに潜む。

どの種類も脚が太く、全身毛に覆われていて、いかにも怖そうなクモの仲間です。しかし毒は他のクモと比べて、特に強いというものではありません。夜行性でバッタ、コオロギ、コガネムシなどを食べ、たまにカエルやトカゲを襲うことがあるそうです。名前にあるように鳥も食べるのでしょうか。いろいろな文献を読んでみると、280年も前に出た本に鳥を食べるという話が書かれており、あたかも事実であるかのように伝えられて来たのですが、実際は鳥を食べたりしません。世界最大の花ラフレシアが、「強烈な腐肉臭がする」と言われていることと同じです。ラフレシアにはキノコに似た臭いが僅かにあるだけです。

2.地上5メートルの高さにいた。

トリクイグモは、ボルネオ島では3種類が知られています。サバ州で多くの人が訪れるダヌムバレー保護地域では、ナイトウォークやナイトサファリがあります。この時、地上1メートルから、時には5メートルもの高さの木の幹で見かけるものは、マレーシアンアースタイガーと呼ばれる種類です。体の大きさが5センチ、足を広げると10センチを超す大きなクモです。体は灰色がかった明るい褐色をしています。樹上性で、日中は木の洞や割れ目に潜んでいます。他の2種類は、地中に穴を掘って棲んでいます。学名は下記の通りですが、ボルネオ産は別種だとする説もあります。

私が初めて生活したボルネオの森は、東カリマンタンのバリクパパンから50キロほど離れたブキットスハルト研究林でした。1985年、日本政府によって研究用の宿泊施設が完成し、最初の滞在者が私でした。林道も、この時に作られたものです。

林道脇の土手の、砂地の急斜面に、直径5センチほどの穴がありました。私は最初、カニの穴かと思いました。しかし、マングローブや湿地帯から遠く離れた山中に、オカガニのような大きなカニが棲んでいるとは考えられません。

いぶかしげに眺めている私に、「トアン、大きなクモだよ」。一緒にいた人夫のジャマル君が教えてくれました。トアンとは、目上の男性への呼びかけの言葉です。

「捕ろうよ。見てみたい」。私が言うと、穴をのぞき込むような仕草をした後、彼から一言「いない」という返事が返ってきました。

穴は、林道に沿って幾つも見つかりました。決まって草のない日当たりのよい場所です。しかし、多くが彼の言う「いない穴」でした。巣から出た時に外敵に襲われたり、寄生虫や病気で死ぬ個体もあるのでしょう。後に一度、穴の中で半ば乾燥した死体を見つけたことがありました。表面にたくさんの小さなキノコが生えていました。

「トアン、いるよ」。ようやく探し当てた穴は、入り口に糸が張られていました。クモが棲んでいる穴は、日中、糸で塞がれているのです。

ジャマル君は、スコップ代わりにパラン(山刀)を使いました。穴は30センチの深さがあり、一番奥まった所に、足の太い黒光りした巨大なクモがいました。巣が暴かれたというのに、クモは微動だにしません。日中は穴の中で過ごし、夜になると狩りのために外へ出るのです。子どもも穴の中で育てます。

3.アシダカグモの一種。脚が細くて長い。

ジャマル君は、手の平くらいの葉をちぎって来て、クモを掴み捕りしてみせました。葉っぱを使えば咬まれないから、私にもやってみろと言うのですが、私は、彼のような勇気を持ち合わせていませんでした。

夜のジャングルでは、さらに大きなクモに遭遇します。体は3センチほどですが、脚がスラーッと長く、脚を広げると直径12センチ、CDの大きさくらいになります。これはアシダカグモ科の一種で、トリクイグモと同様、網を張らない徘徊性のクモです。全世界の熱帯、亜熱帯を中心に分布していますが、今では関東地方以南の本州、四国、九州にも棲息しています。私の郷里である静岡では、私が小さい頃は、どこの家にも棲んでいました。専らゴキブリを捕食するありがたい存在なのですが、天井や壁を矢のごとく疾走する姿は、子供たちには、不気味で怖い存在でした。

オオクロケブカジョウゴグモは沖縄のタランチュラとも言うべき大きなクモです。脚も太く、トリクイグモに似た体型をしています。ジョウゴグモ科に属し体長35ミリ、全身黒色で腹部はやや赤みがかっています。石垣島や西表島に棲息し、かつては台湾に分布するものも含めてホルストジョウゴグモと呼ばれていました。現在は宮古・八重山諸島産をオオクロケブカジョウゴグモ、台湾産をホルストジョウゴグモと2種類に分類しています。さらに石垣島、西表島には別種で小形のヤエヤマジョウゴグモが分布しています。

 

和名/マレーシアンアースタイガー
学名/Cyriopagopus thorelli
英名/ Malay Earth Tiger

 

著者プロフィール

安間 繁樹(やすま・しげき)

東京大学大学院博士課程修了。農学博士(哺乳動物生態学専攻)。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益財団法人平岡環境科学研究所評議員。2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
若い頃から琉球列島に関心を持ち、とくにイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。1985年からは、おもに国際協力機構(JICA)海外派遣専門家として、ボルネオ島で調査および研究指導に携わってきた。西表島とボルネオ島に関し、あるがままの自然と人々の営みを記録すべく歩き続けている。
著書 西表島および琉球列島関係
『ネイチャーツアー西表島』(東海大学出版会)、『西表島自然誌』(晶文社)、『石垣島自然誌』(晶文社)など
ボルネオ島関係
『キナバル山 ボルネオに生きる自然と人と』(東海大学出版会)、『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)、『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)など多数

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